この邸に吸血鬼はいるのか、そう問われれば答えは是となる。

サラの見る夢の中で、地下に安置された柩の中には吸血鬼が眠っていた。

バルクロがいったいどうやってここまで来たのかは分からないが、やはり吸血鬼を恐れて今こうして逃げている。

それこそがグレンが正体を隠したがった理由だろう。しきりに領主家の噂を気にしていたのは、吸血鬼の存在が事実だったからに他ならない。

単なる噂なら一笑に付すこともできたはずだ。

けれど現実に吸血鬼はいる。人々が吸血鬼を恐れるのは多分におとぎ話の影響だと言える。ずっと昔には魔女も妖精もみんな同じ地で暮らしていたと言うのに。

サラは人狼であるアレンを助けようとした時、グレンに人外のものについてどう思うかと聞いたことを思い出した。

グレンは自分が戦うべき相手と、そうでない相手という区別でしか判断しない。そう言ったのに、サラは吸血鬼だと言うだけで恐ろしいものだと決めつけていた。

何故グレンがハンナに癒しの箱を渡したのか確かめなくてはならない。

「バルクロ、ハンナお嬢様をお願い」

サラはそう言ってハンナの手をバルクロに預けると踵を返した。

「サラ!」

バルクロが開けた扉から光が差し込んでいた。サラは蝋燭の光を手にまた闇の中へと戻っていった。