バルクロが近くにいるせいか、サラは次第に落ち着きを取り戻していった。

グレンのことはひとまず頭の隅に追いやる。今はハンナを無事にここから連れ出すことが先決だ。

暗い所が怖いと言っていたハンナが心配で、サラは何度もハンナの様子を確かめるように振り返った。

そのせいでバルクロが足を止めていたことに気付かず、その背中に思いきり鼻をぶつけてしまった。

「どうしたの?」

痛みをこらえて尋ねると、バルクロは燭台を天井に向けて掲げ、そこに上に登る階段があることを示した。

「出口かしら」

「確かめてくる」

バルクロは言うが早いか、階段を上り始めた。その姿がすぐに闇の中に消える。

サラはハンナの肩を抱き寄せ、バルクロが帰ってくるのをじっと待った。
 
確かに暗闇は恐ろしい。周りに何があるのか分からず、どこを目指して歩けばいいかも分からない。

小さな物音さえ、心臓に突き刺さってくるようだ。

サラはハンナを占ったことで、その気持ちに同調しやすくなっているのか、いつもより暗闇を怖いと感じていた。

占い部屋はいつだって蝋燭の灯りだけで、すぐ後ろは闇の中だった。

それを怖いと感じたことはない。

「サラ……、怖い……」

ハンナの今にも泣きだしそうな声に、サラはハンナの手を強く握りしめた。

自分が恐れれば、それがハンナに伝わってしまう。

「ハンナお嬢様、今日はもうこれ以上怖いことは起こりません。明日はお庭でガーデンパーティがあるそうですよ。それに、ソマン川で船に乗りましょうか。船から見るバランの街は本当に素敵なんですよ」

サラが明るい声でそう語るのを聞いて、ハンナの震えが収まっていく。

そこにバルクロが帰ってきた。すっかり暗闇に慣れたのかその足取りは軽い。

「外に出られそうだ。行こう」

エレインの話を聞いた時はすっかりバルクロのことを悪人だと思ったのに、今はこうして助けてくれるバルクロを信じたいと思っている。

一方であんなに信じていたグレンのことを、一瞬で信じられなくなってしまったことに、サラは自分を叱りたい思いだった。