バルクロは廊下の突き当たりまで来て、出口など初めから用意されていないことに気付いた。

サラの部屋にあった魔法陣はこの地下通路への一方通行だ。

誰かがサラを、あるいはバルクロか、もしくはその両方を地下へ誘き寄せるために魔法陣を仕掛けたのだ。

ご丁寧にも奏での箱まで用意して、サラとハンナには暗示をかけるという念の入れようで。

バルクロはサラを腕に抱いていなかったら叫んでいたところだ。

――あの性悪魔女!!

「バルクロ?」

サラが焦点の合わない目をバルクロに向けて不思議そうに名前を呼んだ。

「やぁ、サラ」

サラが身動ぎするのを感じて、バルクロはそっとサラを立たせた。

焦ったところでどこにも行き場はない。さっきのオルゴールの音色が本物なら、間もなく吸血鬼とご対面だ。

「バルクロ、ショーはどうなったの?」

「今それを心配してくれるの?」

バルクロは乾いた笑みで答えながら、ざっと周囲に目を走らせた。

廊下にはいくつかの扉が並んでいる。狭い通路にいるよりどこかの部屋に入って身を隠した方がいいだろう。

「ここはいったいどこなの?」

「うーん、どこだろうね? あまり安全な場所とは言えないかな」

バルクロは通路の壁から燭台を取り外し、手近のドアのひとつを開いて中の様子をうかがった。

「もしかしたら私たち、今危険な状況かしら」

「よく分かったね。今まさに僕らは吸血鬼に襲われる直前だ」

おどけて言うバルクロを、サラは怒ったような困ったような複雑な表情で見返してくる。

「状況は後で説明するとして、今はとにかく出口か隠れられる場所を探さないと」

話しながらも部屋の中をぐるりと回って確認していくバルクロに、サラはついて行くしかない。灯りを持っているのはバルクロだけで、少し離れると暗闇に飲み込まれそうになる。

サラはハンナの手を離さないようにぎゅっと握り、すり足で足元を確かめながら進んだ。