サラをテント裏から連れ出したのはエレインだった。

「バルクロから癒しの箱を取り戻す方法を思い付いたの」

エレインはそう言うと、サラにこっそり部屋に戻っているように言った。

ショーの最後にはサラが舞台に姿を表し、箱の中で切り刻まれたはずの人間が生きていたことを証明する次第になっている。

けれど、エレインは自分がサラの代わりに出るからとサラと衣装を取り替えたのだ。

おかげで、サラは部屋でおとなしくショーが終わるのを待つほかなくなってしまった。

部屋に戻ったサラは、ハンナの言ったことが気がかりで魔法陣の上で占いを始めた。

――この邸に吸血鬼がいるかどうか。

ハンナがサラに占って欲しいと言ったそのことを、サラは水盤に問いかけた。

そうは言っても、サラの半人前の占いでは会ったことのない人物を占うことはできない。

水盤に浮かんだのはグレンの顔、そしてハンナ。

ハンナが見たというグレンは金色の瞳を光らせていたが、水盤の中ではまるで別人のように暗く厳しい表情を浮かべていた。

二人は何かを話している。ハンナは今にも泣き出しそうで、グレンはそんなハンナに小さな箱を渡すと背を向けて去っていった。

「ハンナ、グレンに何て言われたの?」

サラはぽつりと呟いた。けれど答えは返らない。

水盤の中でハンナは箱をじっと見つめている。

やがて庭の方が騒がしくなってくると、サラはショーの様子が気になり水盤をかき混ぜて立ち上がった。

その瞬間、魔法陣が青い光を放ちサラの体は地下へと異動させられてしまったのだった。

驚いて立ちすくむサラの耳に聞こえてきたのはグレンの声だった。

「この柩には吸血鬼が眠っている。そのオルゴールの音を聞かせれば目覚めるだろう。きっと君を助けてくれる」

サラは自分の今耳にした言葉が信じられなかった。

声のする部屋をそっとのぞきこむ。そこにグレンの姿はなく、いたのはハンナひとりだった。