バルクロは邸を出ようとしてふと足を止めた。

ただの勘のようなものだった。近くにサラがいる。声が聞こえたわけでも姿が見えたわけでもない。それでも確かに近くにいると感じる。

バルクロは玄関扉へ向かいかけていた足を左へ続く廊下へと向けた。

その先にあるのはサランディールの占い部屋。

音をたてないようにそっとドアを開け、中にすべり込む。

庭に面した窓が開け放たれ、夜風にカーテンが揺れている。

差し込む月明かりをたよりに部屋を見渡してみても、誰もいない。

バルクロは額縁が掛けられた壁に歩みよると、その絵を見上げた。

箱の絵が描かれた地図だ。さらに部屋の奥に進むと、寝室に続くドアがある。

一瞬躊躇ったものの、バルクロはそのドアも開け中へ進んだ。

中央に敷かれた魔法陣の刺繍が青白く光っていた。

その中に足を踏み入れると、次の瞬間バルクロの体は部屋から消え失せていた。



長い石壁の廊下が続いている。
点々と灯る蝋燭の光を頼りに、バルクロは歩き続けた。
廊下にはいくつもの扉が並んでいた。

いくつ目かの扉の前でバルクロは足を止めた。

微かに開いたそこから明かりがもれている。

「サラ? いるのか?」

声は石の壁で跳ね返り不気味に響く。

「バルクロ?」

返事があったことに、バルクロはほっと胸を撫で下ろした。

「サラ、怪我はない? どうしてこんな所に?」

サラは壁際に膝を抱えてうずくまっていた。涙に濡れた目でバルクロを見上げると、不安そうに視線をさまよわせた。

バルクロはサラの隣に膝をつくと、怪我がないかを確かめ震える肩を落ち着かせようとゆっくりと抱き寄せた。

「何があったの?」