バルクロは今すぐここを逃げ出すか、エレインをどうにか追い出すかの二択に頭を悩ませた。
世の中に天敵というものがいるなら、バルクロにとってはまさにエレインがその天敵だった。まともにやり合ってはいけない相手だ。
バルクロを封じの箱に閉じ込めた魔女。今目の前にいる女性は数十年前と変わらぬ若さで、あの頃と同じようにバルクロを惑わせた蠱惑的な笑みを見せている。
バルクロは頬を引き攣らせながら後ずさった。
逃げなければと本能的に足が動く。
けれどここで逃げれば封じの箱はエレインの手にわたり、二度と取り戻せなくなるだろう。
それにサラにも会えなくなる。
エレインの「バルクロに閉じ込められた」という言葉のおかげで、グレンの鋭い眼差しがバルクロを射抜いている。
バルクロは何度か息を吸って吐いてを繰り返し、冷静さを取り戻した。油断をすればまたエレインに箱に閉じ込められないとも限らない。
「さっきまでこの部屋にいたのは間違いない」
バルクロはグレンに向かってそう言うと、部屋の中を見回した。隠れているのか、もしくは他の部屋にいるのか。
「誰かを探していらっしゃるのですか?」
エレインはわざとらしくグレンを見上げ尋ねる。
「エドニー、彼女を部屋へ案内してさしあげろ」
グレンはエレインの問いには答えず、見向きもしなかった。
バルクロが心の中でエレインをあざ笑う。
――何を企んでいるか知らないけど、領主様は魔女に興味はないってさ。
――私だって若造に興味なんかないわよ。それよりこんな所で会うなんて、私たちこそ運命じゃない?
――恐ろしいことを言わないでくれ! どうせ分かってて来たんだろ?
――あら、どうかしら。でもここに封じの箱があるってことは知ってるわ。ちょうどいいじゃない?
――二度と箱に閉じ込められるのはごめんだ!
――それなのに何故箱の周りをうろつくの?
――そっちこそ、何故異界への入り口を塞ぐ? この世界に魔物の居場所はない。
――相変わらず、分かってないのね。
二人は周囲には聞こえない声で話しながら、しばらく睨みあっていた。
やがてエレインの方が先に動いた。ワンピースの裾を揺らしてバルクロに歩みよると、後ろ手に持っていた小箱を胸の前に回し、すばやく蓋を開いた。
バルクロはそれを見たとたん身を翻して駆け出した。
「クソッ、もう手に持っていたなんて聞いてない!」
――癒しの箱を持ってきなさい。そうしたら封じの箱に閉じ込めるのはやめておいてあげるわ。
エレインの声を頭の中に感じながら、バルクロは階段を駆け下りていた。
世の中に天敵というものがいるなら、バルクロにとってはまさにエレインがその天敵だった。まともにやり合ってはいけない相手だ。
バルクロを封じの箱に閉じ込めた魔女。今目の前にいる女性は数十年前と変わらぬ若さで、あの頃と同じようにバルクロを惑わせた蠱惑的な笑みを見せている。
バルクロは頬を引き攣らせながら後ずさった。
逃げなければと本能的に足が動く。
けれどここで逃げれば封じの箱はエレインの手にわたり、二度と取り戻せなくなるだろう。
それにサラにも会えなくなる。
エレインの「バルクロに閉じ込められた」という言葉のおかげで、グレンの鋭い眼差しがバルクロを射抜いている。
バルクロは何度か息を吸って吐いてを繰り返し、冷静さを取り戻した。油断をすればまたエレインに箱に閉じ込められないとも限らない。
「さっきまでこの部屋にいたのは間違いない」
バルクロはグレンに向かってそう言うと、部屋の中を見回した。隠れているのか、もしくは他の部屋にいるのか。
「誰かを探していらっしゃるのですか?」
エレインはわざとらしくグレンを見上げ尋ねる。
「エドニー、彼女を部屋へ案内してさしあげろ」
グレンはエレインの問いには答えず、見向きもしなかった。
バルクロが心の中でエレインをあざ笑う。
――何を企んでいるか知らないけど、領主様は魔女に興味はないってさ。
――私だって若造に興味なんかないわよ。それよりこんな所で会うなんて、私たちこそ運命じゃない?
――恐ろしいことを言わないでくれ! どうせ分かってて来たんだろ?
――あら、どうかしら。でもここに封じの箱があるってことは知ってるわ。ちょうどいいじゃない?
――二度と箱に閉じ込められるのはごめんだ!
――それなのに何故箱の周りをうろつくの?
――そっちこそ、何故異界への入り口を塞ぐ? この世界に魔物の居場所はない。
――相変わらず、分かってないのね。
二人は周囲には聞こえない声で話しながら、しばらく睨みあっていた。
やがてエレインの方が先に動いた。ワンピースの裾を揺らしてバルクロに歩みよると、後ろ手に持っていた小箱を胸の前に回し、すばやく蓋を開いた。
バルクロはそれを見たとたん身を翻して駆け出した。
「クソッ、もう手に持っていたなんて聞いてない!」
――癒しの箱を持ってきなさい。そうしたら封じの箱に閉じ込めるのはやめておいてあげるわ。
エレインの声を頭の中に感じながら、バルクロは階段を駆け下りていた。