バルクロは動じることなく肩を竦めて見せた。

「あーあ、ショーが台無しですよ、領主様」

そう言って撫でるようにグレンの手を振りほどくと、片手に持っていたエペを一振りして床に落ちていた別のエペを引っ掛けるようにしてはね上げる。

グレンの右手がそのエペを受け止めると、二人は剣先を交えた。

「サラはどこだ、無事なのか?」

「もちろんですよ。この僕が失敗したとでも?」

「ではあそこに流れている血はなんだ?」

「……血?」

バルクロはグレンの指差す床に目を向け、一瞬驚いたような表情を浮かべたあと、左右に首を振った。

「あれはサラの血じゃない。僕はサラを傷付けたりしていない」

グレンは鍔を押し付けるように一歩間合いを詰める。

「それが嘘ならただでは済まさない」

バルクロも負けじと押し返しながらそれに答える。

「サラなら向こうにいるはずだ」

箱に入ったあと、バルクロは魔力を使ってサラを箱の中から、テントの裏へ移動させた。本来なら箱の中から自力で脱出し、舞台裏に隠れるようになっているが、代役のサラに練習もなしにそれをさせることはできない。だから魔力を使った。

エペを刺した時には、サラはもう箱の中には居なかったのだから、傷付けようもない。

グレンはバルクロを弾き飛ばすように押しのけ、舞台の裏へ回った。

けれど、そこにサラの姿はなかった。

後から来たバルクロも辺りを見回し首を捻っている。

「どこへ行ったんだ……」

周りにいた奇術の館の者たちと手分けをして探したが、庭にはいないようだった。

広大な庭だ。月明かりが差しているとはいえ、建物やテントから離れれば暗闇に包まれる。

明かりも持たずにそう遠くへ行ったとは思えない。

「建物の中も探せ」

客たちを室内へと案内して戻ってきたエドニーに、メイドたちにサラを探させるように言ったあと、グレンは川の方へ走り出す。

もし暗闇の中で歩き回って足を滑らせ、川にでも落ちていたらと思うと心配でたまらなくなる。

バルクロは舞台に戻り、床を濡らす血を見ていた。

――サラの血のはずはない。いったい、誰が何故こんなことを?

もし万が一サラの身に何かあったとしても、癒しの箱がある。

まずはサラを見つける事が先決だ。バルクロは目を閉じ呼吸を整えた。

一度あやつり人形にしたことのあるサラとは見えない糸で繋がっている。その糸をたどれば居場所が掴めるはずだった。

――待っててね、サラ。今見つけてあげる。