中の人物に本当に剣が刺さることはないと分かっていても、見えないことによる恐怖は小さな子どもたちのみならず、大人たちの好奇心をも刺激する。

結局誰もが芝居に見入っているため、グレンは曲を止めさせることなく、芝居の行方を見守ることにした。

次々に箱にエペを刺すと、バルクロはその箱をぐるりと回転させ、エペが箱を確かに貫通していることを示して見せた。

そしてさらには宙にぶら下がっていた大きな丸刃が箱の上に落ちてくる。

箱は真っ二つに切り裂かれた。

客席に向けられた箱の中には貫通した剣が見えるのみで、そこにサラの姿はもちろんなかった。

奇術は成功だ。あとはサラが無事な姿で登場するだけ、そう思った矢先、誰かの鋭い悲鳴が夜空を切り裂くように響き渡った。

グレンは考える間もなく舞台に駆け寄っていた。

悲鳴を上げたのはハンナだった。

舞台の床からハンナの前に流れ落ちてきたもの。すぐにそれが血だと分かった。それもサラの流した血だ。箱から抜け出すのに手間取ってエペがサラの体を傷付けたのかもしれない。

グレンは舞台の上からこちらを見下ろしていたバルクロと視線を合わせた。

もしサラにエペが刺さったならバルクロには感触で分かったはずだ。

それなのにすぐにショーを中止しなかったのは何故だ。

グレンはエドニーに客たちの誘導を任せ舞台に上がると、バルクロに掴みかかった。

「サラはどこだ?」