ハシリはそんなサラと目が合うと、ニコリと笑って見せた。

「あ、僕舞台の準備に戻らなきゃ。サラ、大丈夫。バルクロは本当に失敗なんかしないから。僕の分まで頑張って」

ハシリにそう言われると、サラは断りきれなくなる。

舞台に走っていくハシリの背中を見送って、サラはバルクロに向き直った。

「ハシリの前でよくあんなことが言えるわね」

「あんなこと? ああ、失敗したことがないって?」

「そうよ。あなたが奇術の館に来なければハシリが舞台に立っていたはずよ」

「それは違うよ、サラ。僕がいてもいなくても、ハシリはいつかは試練にぶつかる。それがたまたま今だったってだけ。それに僕はハシリがまた舞台に立てるように協力してるつもりだよ」

サラはハシリを占った時のことを思い出してそれ以上何も言えずに唇を噛んだ。

「サラ、時間がないよ。とにかく着替えておくれ」

フィがいつの間にか青いドレスを抱えて待っていた。

フィの真剣な顔からも、今の差し迫った状況がうかがえる。もう断ることは出来なさそうだった。

「手伝う代わりに後で私の頼みも聞いてもらうから」

サラは精一杯バルクロを睨んでそう言った。

――そうよ。これはいい機会よ。

ここで頼みを聞いておけば、癒しの箱を借りる時の交換条件に使えるかもしれない。

嬉しそうにうなずくバルクロを信じていいのだろうか。いまひとつ確信の持てないまま、サラは胴体切断マジックの箱に入る選択をしてしまったのだった。