ルーン文字の刻まれた丸い石を袋からいくつか取り出し、サラはリリアの前に置いた。

「好きな石を三つ選んでみて」

サラにとってこの石は直接占いには関係がない。相手の意識を石に向けさせることができれば何でも良かった。

「じゃあリリアちゃんの大切なものを三つ思い浮かべてみて」

リリアは真っ先にオルゴールを思い浮かべた。それから灰色の犬、そして支配人の顔が浮かぶ。

「犬を飼ってるの?」

「ううん。学校の裏にいつもいるの。アレンていうのよ」

「アレンと仲良しなの?」

「うん! でもこの間から姿が見えないの」

リリアの顔が曇る。

サラの中には様々なイメージが浮かび始めていた。

音が遠ざかっていく。やがて聞こえてきたのは懐かしい友達の声だった。

「可愛い! ねぇ、それ私にちょうだい!」

「ダメ、これは絶対ダメ」

「何よ、サラのケチ! もう一緒に遊ばないから」

仲の良かった友達とのそのたった一回のけんかの後、サラは二度とその子と一緒に遊ぶことはなかった。お互い気まずい関係のままサラが引っ越してしまったからだ。

――彼女の欲しがった物が別の物なら良かったのに。よりによって絶対にあげることのできない母の手鏡を欲しがるなんて。

忘れかけていた古い記憶を呼び覚まされて、サラは胸が痛んだ。

リリアの気持ちとサラの古い記憶が共鳴していく。

サラはリリアの中にいた。目の前には灰色の髪の男の子がいた。

「オルゴールはダメ。これはママからもらった大事な物だから」

「リリアの大事にしている物が欲しい。そのオルゴールなら……」

「ダメ、絶対。これはダメ」

目の前にいる男の子はあの時のサラの友達のように、リリアの大事なオルゴールに心惹かれてしまったのだ。

寂しい時、辛い時、何度も取り出して眺めた手鏡に、サラは慰められ助けられてきた。

リリアにとってのオルゴールも同じだった。

友達が嫌いなわけじゃない。他の物ならなんだってあげる。でもそれだけは駄目なのだ。

後になって仲違いしたことをどんなに後悔するとしても、それだけはあげられない。

――どうして分かってくれないの?

そんな思いと同時に、仲違いせずに済む方法があったはずだと今なら分かる。

はっと目を開けると、グレンの顔が目の前にあった。心配そうに見つめる顔がぼやけて見える。

不意に頬を撫でられてサラはビクリと肩を震わせた。

「急に泣き出すから驚くじゃないか」

グレンはそう言って指の背でサラの涙を拭った。

ホテルの中庭、どんよりとした曇り空の下で支配人の娘であるリリアが不安そうにサラを見上げていた。

ガーデンテーブルにはパラソルが差してあり、縁飾りが風にはためいている。

三人はそれぞれ青銅製のチェアに座っており、灰色の髪の男の子はどこにもいなかった。

テーブルに置かれた小石はリリアが並べたのか円を描くように並べられている。

「すみません、何でもないんです」

サラは手の甲で頬を拭いあわてて笑顔を取り繕った。

「何でもなくて急に泣き出すのか」

グレンは眉をひそめサラの顔をのぞき込む。

「占いはそんなに負担になるのか」

重ねて問われサラは目を見張った。グレンはサラの体を心配してくれているようだった。

「そうじゃなくて、ちょっと昔のことを思い出してしまっただけです。そんなにまじまじと見ないでください」

フィが目の周りに施してくれた化粧が涙で崩れてしまったことだろう。

サラはグレンから顔を背け、バッグからハンカチを取り出そうとして思い出した。占いの石しか入らなかったため、ハンカチを持って来ていなかった。

すっと差し出された高級そうなハンカチをありがたく受け取ったものの、汚してしまいそうで使うに使えない。

「それで足りなければ胸を貸そうか」

両腕を広げるグレンにサラは思わず吹き出した。

「笑われるところじゃないと思うんだが」

グレンは肩をすくめると、立ち上がってリリアの所へ行った。その体を軽々抱き上げると、

「占いが終わったならリリアを部屋まで送り届けてくるよ」

そう言ってリリアを片腕に乗せ歩いていく。その背中を見送り、サラは手元のハンカチに目を落とした。

不思議な感覚だった。まるでリリアと自分がぴたりと重なるように気持ちが共鳴するのが分かった。

そしてリリアのオルゴールが今どこにあるのか、その答えが分かったような気がした。