「サラ!」

テントの裏から駆け出してきたのはハシリだった。フィもその後からやってくる。

「サラ、何も言わずにちょっと手伝ってくれない? 手伝ってくれるよね? サラだもの」

「お願いだよ。今日の公演を失敗したら領主様からの援助を受けられなくなるらしいんだ」

フィとハシリは口々にそう言ってサラをテント裏へ引っ張っていこうとする。

「もちろん手伝うわ。でもその前に何があったか話して」

「バルクロのショーの中で胴体切断をやるんだ。その時箱に入るはずだったエミリアが急に腹痛で来られなくなったんだよ」

「ハシリは裏方の仕事があるし、私じゃ箱に入れなくってさ」

フィが困ったように肩をすくめた。

「そんなこと急に言われても、練習もしていないのに私にできるわけないわ」

「できるよ。僕に任せて、サラは箱の中で横になっているだけでいい」

話している途中で現れたバルクロが、相変わらず美しい天使のような笑顔をサラに向けて言った。

「胴体切断って箱の中に入ったらこっそり抜け出すんじゃないの?」

「そんな必要はないよ。大丈夫、サラの体を本当に切断したりしないから」

バルクロはそう言って笑っているが、エレインの話を聞いた後ではとてもバルクロを信じる気持ちにはなれない。

「もし、失敗しても僕には癒しの箱があるし。ね?」

サラは悪びれもせずにそんなことを言うバルクロに呆れて、ため息混じりに首を左右に振った。

「失敗が前提なの? そんなショーに出るほど私は勇敢じゃないわ」

つい刺々しい言い方になるのも仕方のないことだ。

「怒ったの? ごめん。本当に信じてよ。僕はマジックで失敗したことがないんだ」

バルクロの言葉にサラは思わずハシリの顔色をうかがっていた。