「ハンナお嬢様、人間は誰しもみんな自分の中に猛獣を飼っているそうです。吸血鬼や人狼を恐れる人たちの中にも、魔物が住んでいる。お嬢様がもし吸血鬼になったらきっと、今心の中に抑えている猛獣と吸血鬼がけんかしてお嬢様を傷付けてしまうことになるかもしれません」

ハンナはだまってサラの言葉に耳を傾けている。

「怖いものは私にもたくさんあります。でも怖いと思うのは自分を守るためなんじゃないでしょうか」

「守るため?」

「そうです。たとえば私は蛇が苦手なんです。だから絶対に近付きません。蛇を見たら一目散に逃げ出してしまいます」

自分の両腕を抱くようにして擦りながら話すサラに、ハンナは興味を引かれたようだった。それまで口数の少なかったハンナが身を乗り出しながらサラに尋ねる。

「もし周り中蛇に囲まれちゃったら?」

「うーん、考えたくもありませんが、一番蛇の少ないところを目をつぶって走り抜けます」

「それでも追いかけてきたら?」

「その時は蛇に勝てる人に頼ります。自分で戦わなくたっていいんです。その代わり、その人が苦手なものとは私が戦います。お嬢様もそういうお友達を見つけませんか?」

ハンナは途端に肩を落として俯いてしまう。

「そんなお友達簡単にできっこないわ」

それでもサラは言葉を繋いだ。

「私ではお友達になれませんか?」

ハンナと同じ目線でまっすぐに目と目を合わせるサラに、ハンナはたじろぎながらも頷いた。

「えっ……、それは、別にいいけど。私の代わりに戦ってくれるの?」

「ええ、もちろん。でも本当は戦う以外にもたくさん方法はあるんです」

しばらく呆然としたようにサラの顔を見ていたハンナだったが、しばらくすると堪えていたものが崩れるように嗚咽をもらし始めた。

サラはその背中を撫でながら、ハンナとリリーたちを仲良くさせる方法を思案していた。