エレインは地図に描かれた箱のひとつ、封じの箱を指さした。

「ここにあるんでしょ? しかも箱は最近開かれた……」

赤く塗られた爪の先をすいっとサラに向け、エレインは身を乗り出す。

「開けたのはあなた。そうでしょ?」

そこまで分かっているのなら、サラも隠すことはできない。むしろ何故ヴィルヘルムを知っているのか。どんな占いをするのか。他に箱について何か知っているのか。エレインに聞きたいことが次々とうかんでくる。

サラが何から尋ねれば良いのかと思案するうちに、エレインは可笑しそうに肩を揺らせて笑いだした。

「分かるわぁ〜。今わたしに聞きたいことが山のようにあるでしょ? 突然現れてヴィルヘルムを返せだなんて思ってもみないことを言われて」

「え、ええ。おっしゃる通りです。あの、よろしければ座ってお話しませんか?」

サラが椅子を勧めると、エレインはすんなりと椅子に腰掛けた。

「ヴィルヘルムは悪魔、ですよね?」

「そうね。でも悪い子じゃないの。主人を失って長い間さまよっていたから、また少し悪い感情に染まってしまったけれど」

「どうして封じの箱に閉じ込められているんですか」

「あいつに騙されたのよ。悪魔より悪い奴、バルクロにね」

エレインの口からバルクロの名前まで飛び出したことに、サラは驚きのあまり声が出なかった。

「もともと箱に封じられていたのはバルクロだったのよ」

そう言うとエレインは不機嫌そうに眉をひそめた。

「……バルクロは何を、何をしたんですか」

エレインの話すことが真実とは限らない。それでもエレインはバルクロの過去を知っていると思えば、尋ねずにはいられなかった。

「あいつは元は箱の番人みたいな存在だったの。でも、いつからかこの世界に残った魔物たちを無理やりあっちの世界へ送りこむようになった。どっちの世界にいたいかは本人に選択の余地がある。でもあいつは家族を引き裂くことも厭わない。魔物と見れば次々に攫っていった。それで魔女たちが協力してバルクロを箱に閉じ込めた。向こうの世界への扉も三つの箱が揃わなければ開かないようにしたの」