サラがナイフを鞘から抜き、指の腹に当てようとしたところで、ハンナが突然立ち上がった。

「どうしたの、ハンナ?」

リリーがハンナを見上げて不思議そうに問いかける。ハンナはナイフとサラを交互に見て左右に首を振った。

「もしかして指を傷付けるんですか?」

怯えたような様子のハンナに、サラはナイフを一度鞘に戻し、安心させるように言葉を選びながら説明する。

「ハンナお嬢様、ナイフで傷付けるのは私の指だけです。私の占いはほんの少し血を使います。決してお嬢様方の体に傷を付けたりはいたしません。それでももし、この占いがお嫌でしたら、石を使った占いもございます」

「……血はダメ。だって、だってこのお邸には」

「ハンナ、あんなのはお母様たちがわたしたちを怖がらせるために言ってるだけよ」

リリーの言葉にハンナは少しの間躊躇って、やがてゆっくりと椅子に腰を下ろした。

ハンナが何を言いかけたのか気になったが、ノックの音がして新しい客が訪れた。

戸口からするりと滑り込むように入って来たのは、今まさに、リリーたちに頼まれて占おうとしていた相手、エレインだった。

「お邪魔かしら?」

グレンの姉アナベラが連れてきたというエレインは、そう言いながらも悪びれる様子もなくテーブルの方へと近付いてきた。

「今はわたしたちが占ってもらってるのよ! 勝手に入ってこないでよ」

リリーが立ち上がりエレインに抗議する。

サラも立ち上がってエレインに会釈しながら、少し待ってもらえるように告げようとしたが、エレインはにこりともせずに少女たちにアナベラが呼んでいると告げた。

「早く行かないとおば様の機嫌を損ねてしまいますよ」

エレインがそう急きたてれば、少女たちは渋々立ち上がった。

「また来るから、次は必ず占ってね!」

リリーはサラにそう言いおいて、エレインを横目に睨みながら部屋を出て行った。もちろんジェーンとハンナもその後について行く。