「ようこそおいでくださいました、姉上」

恭しく腰を折るグレンに、一番上の姉アナベラは澄ました顔で顎を引いた。

「つつがなくやっているようね」

「はい、おかげさまで」

「あなたに紹介したい方がいるの。晩餐会に招いてくれるでしょ?」

事前に来訪者の人数を問い合わせてあるというのに、その日になってこういうことをしてくるのは何の嫌がらせだろうか。

心の中では舌打ちしながらも、笑顔を崩すことなくグレンは頷く。

「ええ、もちろん」

アナベラの後ろに控えめに立っているのは二十歳くらいの若い女性だった。

「エレインよ。あなたのお相手に申し分ない素晴らしいお嬢さんよ」

アナベラの言葉にグレンはその意図するところを察して、思わず声を荒げそうになった。アナベラが連れてきたのはグレンの見合い相手だ。しかもアナベラが勧めるからにはどう断っても相当な痛手を覚悟する他ない。

前に進み出たエレインは水色のワンピースに身を包んでいる。艶のある長い黒髪が印象的だが、顔立ちは平凡で表情に乏しく、この見合いをどう思っているのか量りかねた。

互いの紹介と挨拶を終えて応接室を後にした時には、思わずため息がこぼれた。

グレンが最も苦手とする相手、それが長姉アナベラだった。