「何か分かったことが?」

「ローラはダンという男性と一緒に暮らしていたようだ。君のお父上のことを聞いたことは?」

「私が産まれる前に亡くなったと母からは聞かされています」

「ダン・ブラウニングは君の産まれる半年前に消息不明になったとある」

「消息不明……」

「それについてはもう少し調べてみるよ。それと、封じの箱の鍵のことを思い出したんだ」

グレンはポケットから小さな鍵を取り出した。グレンが子どもの頃埋めた箱の中から出てきた鍵だ。

「晩餐会の夜だった。ローラがこの鍵を俺に預けて言ったんだ。いつか取りに戻るから預かっておいて欲しい。だれにも見つからないようにって。その後ローラはいなくなった。君を連れてね」

「母は私を産んだ後もしばらくはこの街にいたんですね?」

「半年程はいたと思うよ。君が産まれたのが十二月の末で、ローラがいなくなったのが七月の晩餐会の時だから」

「母は何故この街を出て行ったのかしら」

夕暮れに染まっていくバランの街は穏やかで、幼い子どもを抱えた母がひとりで街を出て行く姿を想像してみても、理由が思い当たらない。

「あの時ローラを引き止めていれば、ずっと君といられたのに」

グレンはそう言いながら窓枠に腰掛け、サラに向かって手を伸ばした。

サラはおずおずとグレンに歩み寄る。差し出したアイスティーはトレーごとグレンが取り上げて脇に置くと、サラを引き寄せた。

「毎日あいつに会いに行っているのか?」

あいつというのはバルクロのことだろう。サラは頷く。窓を背にしたグレンの顔は影になって表情が見えない。

「何を話した?」

「いろいろです。いつもはぐらかされてばかりで……」

「楽しそうに二人で街を歩いた?」

「楽しそうじゃありません」

サラはそう言ってグレンの手から逃れようと身を捩った。グレンはより一層腕に力を込めてサラを抱き寄せる。