領主の館では毎年行われる晩餐会の準備で忙しい日々が始まっていた。

晩餐会は年に二度行われる。各領地を治めている親族が一堂に会し、事業報告を兼ねての顔合わせをするのだ。

たくさんの客人が訪れるとあって、普段使っていない客間も念入りに掃除を行わなくてはならない。サラも勤務時間を延長して手伝っている。

グレンも領主としてやるべき事が山のようにあった。

その合間を縫うように、グレンは書庫から十八年前の記録を引き出しては読み進めていた。

サラの母ローラがこの館で働いていた当時、グレンはまだ七歳の子どもだった。

ローラを雇った経緯や身寄りがいたかなどを調べるとともに、箱についての記述がないかをくまなく探していく。

最も気になっているのはサラの父親が誰なのかということだ。

ローラは何故ひとりでサラを産み、その後この街を出たのか。

日誌の中に答えがあるかどうかは分からない。それでも調べずにはいられなかった。

ノックの音に資料から目を離さずに入室の許可を与える。

エドニーならそろそろ仕事に戻れと言いに来たのだろう。

そう思ったものの、いつもの小言が聞こえて来ないことに顔を上げると、戸口に立っていたのはサラだった。

「ああ、君か」

サラの手にはグラスの乗った盆がある。それを見てグレンは資料を棚に戻し、腰掛けていた脚立から降りた。

いつの間にか夕日が差し込む時間になっていた。

「アイスティーをお持ちしました」

メイドのお仕着せ姿にグレンは眉を持ち上げる。

「こんな時間までメイドの仕事を?」

「みんな晩餐会の準備で大忙しです。何を読んでいたんですか?」

「古い記録だよ。……十八年前の」