それからサラは毎日奇術の館に足を運び、謎掛けのような問答をバルクロと繰り返している。

時には川沿いを散歩し、時には買い物に行き、バルクロは終始楽しそうだ。いつだって誘うのはバルクロで、サラは渋々ついて行くだけなのだが……。

どんなにサラが真面目な顔でその手を振りほどいていたとしても、それほど時間が経たない間に二人が恋人同士だと噂になった。

サラは奇術の館に通う間、ハシリのナイフ投げの練習にも付き合った。

ハシリの腕前は以前と変わりなく、的に向かえば百発百中だった。

ただ、的の近くに人がいるとたちまち腕が震えナイフを投げることができない。

ハシリのナイフで怪我をしたというフィの方は、もう傷痕ひとつも残っていないとのことで、まったく気にした様子はない。

「ハシリ、無理に人を的にすることはないし、舞台に立っても大丈夫じゃない?」

サラがそう言えば、ハシリは力なく笑って頷く。

「バルクロのあの凄い奇術の後で、僕のナイフ投げにお客さんが喜んでくれるかどうか分からないよ……」

ハシリはすっかり自信をなくしているようだった。

「バルクロの奇術は確かに凄いけれど、ハシリのナイフ投げを楽しみにしているお客さんもいるわ」

サラもどうにかハシリの力になりたいと、バッグから取り出した占い石をハシリに差し出した。

「好きなのを選んでみて」

ハシリがじっと石を見つめている間、サラの目にはハシリが楽しそうに舞台に駆け上がる姿が浮かび始めていた。