サラは洗濯室での仕事を終えると、急いで船着場へ向かった。
あれから毎日のように奇術の館へ通っていた。
バルクロがどこかへ姿を隠してしまうのではないかと不安だったのだ。

サラを操り封じの箱を手に入れようとしたバルクロだったが、一度失敗に終わってからは領主の館へ訪れることもなく、かといってどこかへ行くでもなかった。

「僕はどこにも行かないよ」

金の髪をさらりと揺らしてそう言って微笑む。

「僕はね、四つの箱をそろえたいだけなんだ。サラを傷付けるつもりなんかまったくないよ」

「バルクロ、お母さんとはどういう関係だったの? 本当のことを話して」

「ローラは魔女だ。僕はその弟子だよ」

「お母さんがあなたに魔法を教えてたって言うの?」

母は魔女の血を引いてはいたけれど、魔女と言うほどの力は持っていなかった。人に教えていたなんてサラには信じられなかった。

「ねぇサラ、どうしてローラは君の前から姿を消したんだと思う?」

「それは私が聞きたいわ。はぐらかさないでちゃんと教えて」

「君が僕を信用してくれるなら話すよ」

――信用? できるはずないじゃない!

サラは心の中で叫ぶ。すっかり焦らされていると思う。バルクロはそんなサラを見て楽しんでいる。

「信用はできない。だって母から癒しの箱を奪ったんでしょ? 昨日は私を操って封じの箱も奪おうとした」

「んー、ちょっと違う。これらの箱は元々は僕の物だ。最初に奪われたのは僕の方だよ」

「母は人の物を奪ったりしない」

「それはどうかな。大切な人を助けたいと思うと人は無茶なことをしてしまうものだよ」