「サラ、どうしたんだ、何があった」

「……封じの箱を見せて」

サラの声が今度は滑らかにそう告げる。

「分かった。こっちだ」

グレンはサラの肩を抱いて階段の方へ促す。その後をローラがついてくる。

エドニーも気付かれないように少し離れて後をついてきているはずだ。

サラの動きはややぎごちない。

「ローラ、いつこっちに帰ってきたんだい?」

グレンは後ろを振り返りながら話しかける。

「…………」

踊り場に来ると、グレンはサラを背中に庇うように立ち、ローラに向き直った。

「お前は誰だ?」

「私はローラよ。サラの母親の」

「そんなはずはない。お前は偽物だ」

ローラは舌打ちすると、羽織っていたマントを翻して階段を駆け下りた。

「エドニー、捕まえろ!」

立ちはだかったエドニーの上を飛び越えるようにしてローラは玄関に向かう。

玄関はエドニーが先程鍵をかけていた。

ドアが開かず再び身を翻したローラは廊下を突き進み、明り取りの窓に飛び込んだ。

ガラスの割れる音に続いて走り去る音が聞こえる。

エドニーは割れたガラスを踏み越えてその後を追いかけたが、闇に紛れて見失ってしまった。

サラはグレンの腕の中でぐったりとしていた。

「サラ、大丈夫か?」

うっすらと目を開いて、サラは頷いた。

さっきまでがんじがらめにされているようだった体が今は自由に動くことを確かめて、サラはほっと息をついた。

「さっきのはあいつか?」

「よく、分かりましたね、偽物だって」

「ああ、ローラがいるはずないからな」

あまりにきっぱりグレンがそう言ったことに、サラは不思議そうにグレンの顔を見上げた。

「いるはずないって……」

どういうことかと聞く前に、グレンがサラを立たせて言った。

「君に見せたいものがある」