時間は少し遡って、サラを部屋に送り届けたグレンは古物商ボーンに会うためダウンタウンへ出かけていた。

リリアとアレンが共同で描いた箱の絵を元に捜索を始めたところ、街中から似た箱があるという情報が届いていたが、今のところ全てはずれだった。

ボーンの店はソマン川を下った先にある。
グレンはちょうどやってきたアシュリーから報告を聞きながら、定期船ではなく領主家所有の小船に乗り込んだ。

「バルクロについて何か分かったことは?」

「ここに来たのは二月ほど前。その前はベイルの港街で薬店の配達をしていたってことまでは分かったが、それ以外はまるで何の情報も出てこない。バルクロって名前が本名かどうかも怪しい」

アシュリーは髪を掻きむしりながらそう答えた。情報収集を得意とするアシュリーが、何の情報も得られないという。悔しそうな様子からも難航していることがうかがえた。

「思ったより前からこの街にいたんだな」

「奇術の館に入ったのが二週間ほど前。それまではジナ川の近くに住むジェロームの家にいたらしい。ジェロームは三年前に死んで今はお婆さんひとりが住んでる。婆さんが言うにはジェロームが若返って帰ってきたんだと」

「バルクロのことをジェロームだと思い込んでいたってことか?」

「そう。時々林の中を歩いているのを近くに住む住民が見ていた。もちろんジェロームは生き返っていないし、バルクロに間違いないそうだ」

「その間にこの街のことやサラのことを調べてたってわけか。奇術の館に入ったのもサラに近付くためだろう」

「あいつは怪しい。調べるのにもう少し時間が必要だ」

「任せる」

グレンはアシュリーの肩を叩いて船を降りると、ボーンの店は三件先に見えていた。

店先には大きな甕や石像、使い込まれた椅子やテーブルが雑然と積み上げられている。

店の中も同じような物だった。薄暗い奥の部屋からボーンが出てくるとアシュリーが気さくに声をかけた。

「ボーンさん、こちらが例の箱を探してるグレンさんだ。早速見せてもらえるかい?」

「いつもご苦労さまです、アシュリー捜査官。その箱なんですがね……」