バルクロはサラになりすまして母から箱を受け取っていた。そしてそのことを今まで隠していた。それだけでもバルクロのことを信用することはできない。

けれど母の行方を知っている様子のバルクロから逃げることもできない。

サラは酷く混乱しながらも、必死にバルクロから話を聞こうとした。

「箱の中にいるってどういうこと? 四つ目の箱については何も分からないって言っていたのに、何故今になってそのことを私に話したの?」

バルクロはおもむろに片手を持ち上げた。

「だって君のそばに邪魔者がいるから」

その表情は今までと変わらず優しげな笑みを浮かべているのに、声はゾッとするほど冷たかった。

バルクロの指先から銀色に輝く粉がサラの目の前に落ちてくる。

「サラ、僕を信じるよね? 君のご主人様は君のことをこの屋敷に閉じ込めようとしている。彼を信じちゃ駄目だ。君とローラの味方は僕だけだよ」

サラは瞼が急に重くなるのを感じて、粉から顔を背けた。

やめてと言いたいのに、体からどんどん力が抜けていく。

「僕のショー見てくれたよね? あやつり人形が得意なんだ。さぁサラ、僕と一緒にベイルへ帰ろう」

ぼんやりする意識の中でサラはバルクロのそんな声を聞いていた。

勝手に手足が動き、サラはベッドから降りて立ち上がると、ドアに向かって歩き出す。

「その前に、封じの箱を取り戻さなきゃね」

肩越しに聞こえる声に操られるようにサラはドアを開け、廊下を歩き始めた。

向かう先は領主の部屋――。