立ち上がった途端、サラは立ちくらみに襲われて再びベンチに崩れ落ちる。

「君はもう少し休んだ方がいい。部屋まで送ろう」

サラは部屋に戻ったらすぐにでも魔法陣を描いた敷布の上で体力を回復しようと心に決めた。

こんな時に長々と休んでいるわけにはいかない。

「あ、そう言えばリリアのオルゴールが見つかったんですか?」

グレンはそれを伝えに来たのではなかっただろうか。

随分話がそれてしまい、肝心なことを聞くのを忘れるところだったと、サラはグレンを見上げる。

「まだ見つかったわけじゃない。似た箱を持っているという人物が分かった。今日これから会いに行く予定だ」

「その方はいったい……」

「ダウンタウンで古物商をやっているボーンという男だ。ヴィルヘルムに話を聞くのはその後にしよう。サラは俺が戻るまでおとなしく待っているように」

グレンは子どもに言い聞かせるようにそう言ってサラの頭に手を置いた。

「それと、リリアのオルゴールが見つかったらベイルへ帰ると言ったこと、一旦保留にしておいてくれないか」

「保留、ですか?」

「ローラは俺が一緒に探す。だから俺の目の届く所にいて欲しい」

「グレンて、随分……」

心配性なんですね、と言いかけてサラは何でもないと首を振った。

グレンが必要以上にサラを心配しているように見えるのは、自分が心配をかけるような態度をとっているからだ。

――まずは体調を戻さないと。

傾きかけた太陽は容赦なくサラの白い肌に照りつける。

バランの夏は暑く、湿度も高い。その夜サラは熱を出した。まじないを唱えて魔法陣の上で眠ったにも関わらず、体力が吸い取られるようだった。