話すほどのことは何もなかった。

ある日突然に、何の前触れもなくローラはいなくなった。

持ち物のいくつかが家から持ちだされていたため、誘拐や事件に巻き込まれたわけではなく、自分の意思で出て行ったものと思われた。

サラは何度もローラの行方を占った。けれど水盤は何も映し出さず、手がかりを得ることはできなかった。

サラにできることは、ローラを見た人を探しその街へ行くこと、そして手鏡に描かれた場所を探すことくらいだった。

「バルクロに母を探してはいけないと言われました。母は私を守るために姿を消したんだそうです」

「彼は信用に足る人物なのか?」

グレンは眉根を寄せ険しい顔だった。

「母があんな物をバルクロに渡すくらいだから、少なくとも母は信用していたのだと思います」

「あんな物?」

「リリアのオルゴールに似た箱で「癒しの箱」と言うそうです。箱の中にはどんな病や傷も治してしまう粉が入っていると言っていました」

「信用して渡したとは限らないだろ? バルクロがローラから奪ったのかもしれない。あるいはその癒しの箱はローラとは何の関係もないものだという可能性もある」

サラは驚いたように目を見開きグレンを見つめた。そんなふうに疑ったことはなかった。そもそもバルクロがサラを騙す理由があるだろうか。

「その箱とリリアのオルゴールが似ていると言ったね。ならこの間の封じの箱とも似ているってことだな。癒しの箱に、封じの箱か……。リリアのオルゴールにも何か名前とか不思議な力があるのか?」

「バルクロが言っていた言葉を信じるなら箱は4つあるそうです。奏での箱というのがリリアのオルゴールの事じゃないかしら」

二人はベンチに並んで座ったまましばらく考えこんでいた。

「やはりあいつに聞くのが一番か」

グレンがぽつりと呟く。

「あいつ?」

「ヴィルヘルムだよ。箱に閉じ込められた間抜けな悪魔」

「それは危険なんじゃ……」

「あいつは願いを叶えない限りあの箱から自由になれない。聞くだけ聞いてみるよ」

「それなら私も行きます」