サラはこの場所で描かれた肖像画についてグレンに話した。

「マチルダさんにも見ていただいたんですが、二十年近く前のことだし詳しくは覚えていないようで……。でも母の着ている服が以前使われていたメイドの制服だそうなんです」

「二十年前? 君のお母さんの名前は?」

「ローラです。正確には18年前だと思います。母のお腹に私がいた頃」

「じゃあもしかしてあの時産まれた子が君か……!?」

「え?」

「俺が七歳の時だ。時期も合う。俺は君が産まれる瞬間に立ち会ったんだな……」

その時のことを思い出すようにグレンは目元をほころばせた。

「ローラがこの屋敷にいたのは半年ほどだったと思う。お腹が大きくなってすぐに辞めてしまったんだ。俺はローラのことが気になって時々家まで様子を見に行っていたんだ。何故と思うだろう? 俺には上に五人の兄姉がいたんだ。もう誰もこの屋敷には近付かない。兄たちはどこに行くにも俺だけは連れて行かなかったし、何をしても俺だけ仲間はずれにしたんだ。それで小さい頃は泣いてばかりいたよ。そんな俺に優しくしてくれたのがローラだったんだ」

「母をご存知だったんですね……」

もっと早く話せば良かった。サラはそう思いながら、幼いグレンの寂しさを思うと胸が痛んだ。

「ある日、ローラの家に行ったら、彼女が苦しそうに床に座り込んでいたんだ。急いで医者を呼びに行って、君が産まれるまで部屋の外で待っていたよ」

グレンはそう話すと、サラを優しく抱き寄せ髪にキスをした。

「また会えて嬉しいよ」

サラは気恥しさに俯く。そして母が確かにここにいて、この街で自分を産んだことを知り涙を流した。

「話してくれてありがとうございます」

「ローラを探していると言ったね? 何があったか詳しく教えてくれ」