濡らしたハンカチを手渡され、サラはそれを首筋に当てた。

急に暑さが厳しくなったせいと、寝不足のせいで軽い熱射病になったのだろう。

「働き過ぎだ。ちゃんと寝ていないだろう?」

グレンはサラの手からハンカチを取り上げると、小さな桶に入れた水につけて絞り直し、サラを膝の上に寝かせて額にハンカチを当てた。

領主に膝枕をさせているところを誰かに見られたりしたら大変だと、サラは慌てて体を起こそうとしたが、グレンに肩を押さえられ動けなかった。

「もしかして、急にベイルの街に帰ると言い出したのはあの奇術師のせいなのか」

「私がこの街に来たのは母を探すためでした。バルクロは母と知り合いだったみたいで、私を追いかけて来てくれたんです」

サラは目を閉じて、グレンの膝に頭を乗せたままそう話した。

「それで一緒に帰ろうと誘われた?」

「母からの連絡を待つにはベイルにいた方がいいから……」

「君とバルクロはどういう関係か聞いても?」

初恋の相手だとは言えずに、助けてもらった話だけをしたが、グレンは納得していない風だった。

「もっと親密そうに見えたけど」

「……」

「あの男は怪しい。君が騙されていなければいいが」

「騙されていたとしても、母を探す手がかりを持っているなら知らないふりはできません」

「分かった。俺も君の母親探しを手伝うよ」

「それなら、ひとつだけ調べて欲しいことが……」

サラは体を起こして、グレンに懇願するような眼差しを向けた。

「母はこのお屋敷で働いていた事があるかもしれないんです」

グレンは目を見開いてサラを見ていた。

「君がここに来たのは偶然じゃなかったのか」