「サラ……」

「私が聞いたのは、領主様に感謝している、領主様は立派な方だ、領主様のお屋敷で働けるなんて羨ましい、そんな声です」

サラは毅然とグレンを見つめ返しそう言った。

グレンがサラに正体を隠していたのは、噂で判断されることを恐れたからだろう。けれど、サラはグレンと話すようになってからその優しさに惹かれ続けている。

噂がどんなにいい加減なものかサラはよく知っている。

魔女だ、魔法使いだと散々噂され、これまでひとつの街で長く過ごすことはなかった。

ただグレンの言葉にひとつだけ納得できないことがあった。そして自分自身も言わなければならないことがあると気付いた。

「でも、受け入れてから全部話すなんて卑怯です」

グレンはサラの続く言葉に胸を突かれたように立ちすくんだ。

「私もお話することがあります。リリアちゃんのオルゴールが見つかったら一度ベイルの街へ帰るつもりです」

サラはその後の記憶が曖昧だった。

急に強い目眩に襲われ倒れそうになり、グレンに抱えられて川の近くの洗い場に来ていた。

ベンチに座らされ、グレンが何かを運んでいるのをぼんやり見ていた。

やがて水の入った洗濯用の盥に、グレンがサラの足をつけさせるとその冷たさに次第に意識がはっきりしてくる。

「大丈夫か?」

サラはこくりと頷いた。

グレンは安心したように微笑むと、サラの隣に腰かけた。

日陰になっていて川面を撫でた風は涼やかで気持ち良かった。