「お昼をサルマンホテルで一緒に食べよう」

グレンに誘われ、サラは戸惑う。以前はフィにドレスを借りたが、今回はそういうわけにもいかない。

「ごめんなさい、私、今日は奇術の館へ行かないと……」

サルマンホテルでのランチを断るのは残念だが、自分のような者を連れていったのではグレンが笑われてしまうだろう。それに、あんな風に口付けを受けた後で、向かい合って食事をしても喉を通る気がしない。

そんなサラの考えを知ってか知らずか、グレンは腕を組むと大袈裟にため息をついた。

「もしかしてアイツに会いに行くのか?」

「…………」

それも否定はできない。俯くサラにグレンは独り言のように呟いた。もちろんサラに聞こえるように。

「せっかくリリアのオルゴールが見つかりそうだって教えようとしたのに」

「えっ、本当ですか? どうしてそれを早く教えてくれなかったんですか?」

「君が俺が領主かと聞いたから……」

「?」

聞いたからどうだと言うのだろう。サラはグレンの言いたいことが分からず首を傾げる。

「今ならまだ逃げ出すこともできる。だが、君が受け入れてくれるなら全てを話すよ」

「逃げ出すって、どういう意味ですか?」

「この街の領主の噂を聞いただろう?」

「噂って……」

「呪われているとか、古い物に固執する変わった一族だとか、……吸血鬼の血が流れているとか」

サラはこの街に来て領主の悪口を聞いた事などない。聞いたとすればグレンの口からだけだ。

「誰もそんなこと言っていませんよ。少なくとも私は聞いたことがありません」