本格的な夏がやってきた。
朝から強い日差しが照りつけ、干した先から洗濯物は乾き始めている。

緑の芝が広がる庭に、真っ白なシーツがはためく。その眩しさにサラは手でひさしを作りながらバランの街を眺めた。

長い坂道を登った所にある領主の館からはバランの街が一望できる。

左手に流れるソマン川は連日続いていた雨で水かさを増していた。

ここ数日サラは雨のせいで奇術の館へ行く足が鈍っていた。

ベイルの港街へ戻るという考えてもいなかった選択に、サラは心を乱されている。

本当なら、一も二もなくベイルの街へ戻って母からの連絡を待つ方がいい。こうしている間にも届け先のない手紙が母に差し戻されていたら。

もしかしたら賢いバルクロのことだから、手紙は誰かが預かってくれるよう頼んでいるかもしれない。

リリアのオルゴールを見つける手がかりが何もない今、サラはいつまでバルクロを待たせることになるか分からない。

思わずため息がこぼれた。

空になった籠を抱えて洗濯室に戻ろうと振り返ったサラは、すぐ後ろに人が立っていたことに驚いて足をもつれさせた。

転びそうになったサラの腕を掴んで、その人は笑った。

相変わらず、サラの胸をときめかせる甘い笑みに、掴まれた腕が熱い。

「いい知らせがある」

「いい知らせ?」

「向こうで話そう。ここは暑すぎる」

グレンはそう言って白いシャツの胸元をパタパタと揺らす。

そこから香る香水の匂いに、サラは聞くつもりのなかった問いを思わず口にしていた。

「グレンはもしかして領主様ですか?」