深夜、窓から差し込む月の光さえ眩しく感じてグレンは体を起こした。

そのまま横になっていても眠れそうになく、サイドテーブルの上のグラスを引き寄せた。

まだ残っていたはずのワインは空で、仕方なく立ち上がると部屋の奥にある扉に向かった。

扉の脇にあるマントルピースに、その扉の鍵は隠されている。扉を開けると下へ続く長い階段があるが真っ暗で足元は見えない。

蝋燭にひとつ火を灯すと、下へ向かって次々に火が灯り、領主を地下へと誘う。

地下の部屋には様々な物が置いてある。

中央には黒く大きな棺。壁際には甲冑や木馬、剣、拷問具などの歴代の領主が集めた品々が置かれている。

どれもコレクターが見れば大金を積んで欲しがるだろう。ここには使用人も入って来ない。領主はそれらひとつずつを手入れできるほど暇でもない。

それなのに、ここにある物は埃ひとつ被らず、錆びることもない。時が止まったようにそのままなのだ。拷問具に残された血さえ、まだその赤い色を残している。使われたのは二百年以上前だというのに。

グレンはそれらから目を背け、目当ての酒の棚に歩み寄った。

中からワインの瓶を抜き出し、ラベルを確かめる。残念なのはこの部屋に置いておくと酒も時間が止まってしまって熟成されないことだ。

この酒を集めたのは先代、つまりグレンの父だ。酒好きでどんなに医者から止められても最期まで酒を飲んでいた。

グレンは幼い頃、父の部屋からこっそりと酒を盗み出しこの地下室へと運び込んだ。これ以上父に酒を飲んで欲しくないと思ったのは、父に死んで欲しくなかったからか、父が早くに死ねば自分が領主を継がなくてはならないことが嫌だったのか。今のグレンにはどちらだったのか分からない。

酔った父はグレンにこの地下室の話をしたことがあった。

「気味の悪い部屋だ。棺の中にあるのは骸骨じゃない。俺は見たんだ。あれはまだ生きてる」