「そうなの……、不思議な箱ね。他の箱についても何か知っている? 詳しいことが知りたいの」

「奏での箱は眠りし者を呼び覚ます。封じの箱はその名の通り、悪しきものを封じこめる。もうひとつの箱だけは何も分からない。ずっと昔に失われたままだってローラは言っていたよ」

「お母さんが……」

「僕はそろそろ舞台に行かなきゃ。サラがベイルへ行く気になるまで僕は待ってるよ。何か僕にできることがあったらいつでも言って」

バルクロはサラの手から箱を受け取ると、そう言ってサラを抱き寄せる。

サラもそれを自然と受け入れていた。母のことを知っている人が近くにいる。それは何より心強いことだった。

それなのに何故か胸の奥がちくりと痛む。

バルクロと別れて外に出ると、午後三時の鐘が鳴っていた。

サラは自分の帰るべき場所がどこなのか分からなくなるような覚束無い感覚で奇術の館を振り返っていた。

「何ぼうっとしてんだ」

横合いから声をかけられそちらに目を向けると、アシュリーが自転車から降りるところだった。

「アシュリー捜査官……」

「暇ならちょっと付き合ってくれ」

「どこへ?」

「来れば分かる」

相変わらず強引でどこか楽しげな様子のアシュリーは、サラを近くの屋台に連れて行った。

路地に点々とある屋台のひとつで、最近できたばかりなのか、サラは見た事のない店だった。

店先には甘い香りが漂っている。

油で揚げ砂糖をまぶした棒状の菓子を売っているらしく、子どもたちが紙に包まれた揚げ菓子を手に駆けていくのとすれ違う。

「これが最近流行りらしい」

そう言ってアシュリーはその菓子をふたつ買い求め、ひとつをサラに差し出した。