「今はまだ帰れない。調べたいこともあるし……」

「調べたいことって? 僕も手伝うよ」

サラはリリアと必ずオルゴールを見つけ出すと約束をしている。オルゴールが見つかるまではまだこの街を出ていけない。

それは言い訳だと心の隅では分かっていたけれど、似たような箱が次々とサラの前に現れることに、何らかの意図を感じてもいた。

リリアのオルゴール、ハイディの小箱、そしてバルクロの癒しの箱。そう言えばヴィルヘルムはあの箱のことを『封じの箱』と呼んでいたことをサラは思い出した。

「ねぇ、バルクロ。あなたが母からもらったという箱をもう一度見せてもらえない?」

「もちろんかまわないよ」

バルクロは荷物の中に大切にしまってある箱を取り出して、サラに手渡した。

「『癒しの箱』と言ったわよね? 他にも似たような箱を知っている?」

「この箱はずっと昔に魔法使いが作った四つの箱のひとつらしいよ。癒しの箱、封じの箱、奏での箱、もうひとつの名前は分からない。パンドラの箱って呼ばれることもあるらしいけど」

リリアのオルゴールは奏での箱に違いない。

「古い物なの?」

「ずっとずっと昔、魔女や人狼、吸血鬼、妖精、そういったものたちが一緒に暮らしていた頃に作られたそうだよ」

「開けてもいい?」

「いいよ。でもたぶん《《今は》》開かないよ」

バルクロはそう言って肩をすくめた。

「……?」

サラがそっと留め具に指を掛け引き上げようとしたけれど、バルクロの言うとおり箱を開けることはできなかった。

「この箱の中には薬が入ってる。どんな怪我も病気もたちどころに治してしまう魔法の粉だよ。でも、そこに薬を必要とする人がいる時にしか開かないようになってるらしいんだ」