「どうしたんです? 何かありましたか?」

占い部屋に訪れたエドニーはサラの顔を見るなりそう言った。

実のところ、グレンの機嫌が悪いのでサラの力を借りようとやってきたところだった。

「エドニーさん、ハイディの箱はどうなりましたか? 少しお借りしたいのですが」

エドニーは思わず声を上げそうになって慌ててこらえた。思い詰めたように考え混んでいるかと思えば、唐突にそんなことを言い出したサラをまじまじと見てしまう。

「あんな恐ろしい箱を何に使うんです?」

やや青ざめた顔でそう問いかけると、サラは「似た箱を見たので……」と歯切れ悪く答えた。

「まさかあいつを呼び出して何か聞くつもりですか? やめておきなさい。あれは人間の手に追えるような代物じゃない。静かに眠らせて置くのが一番です」

「眠らせておくって……」

「あの箱は領主様が屋敷の地下室に……、いや、とにかく二度と人目に触れることはないでしょう」

「そうですか」

サラは肩を落とした。

「それより具合が悪いのでは? 顔色が良くないですよ」

「考えごとをしていて、よく眠れなかったんです。すみませんが少し出かけてきます」

慌ただしく部屋を出て行くサラを、エドニーは黙って見送った。

「グレンに知らせたらまた追いかけて行くんでしょうね。一人で行かせるには少々心許ないか……」

もちろんグレンに報せるつもりはない。書類は山積みなのだ。それでも危なっかしい様子のサラを一人にしておくわけにもいかない。何かあればグレンから文句を言われるのはエドニーだ。

「アシュリーに任せるか……」

どの道、新しく来たという奇術師について調べるようグレンから指示されたところだった。

サラが関係していると知れば、アシュリーは張り切って調べるに違いない。

呼べば走ってきそうな捜査官の幼馴染を思い浮かべて、エドニーは苦笑した。