「随分親密そうだったけど、あの奇術師と君は……」

グレンはたまらずそう問いかけ、真っ赤に泣き腫らしたサラの目を見て口を噤んだ。

「何があった?」

「…………」

「言いたくなければそれでもいい」

サラはまだ混乱していた。せっかく母を見つける手掛かりとなる人物に出会えたというのに、探すなと言われてどうしていいか分からなくなった。

久しぶりに会った初恋の相手に優しくされ、再び気持ちが傾きそうになるのも、まるで自分が自分でないような落ち着かない気持ちになる。

グレンに何をどこまで話すべきだろうか、そう考え始めた矢先、グレンのため息が聞こえてサラの足が止まった。

「……先に帰ってください」

今のサラにグレンを気遣う余裕はない。これからどうするか、一人になって考えなくてはならない。

グレンと一緒にいれば頼りたくなる。そんな思いから絞り出すように告げた言葉に、またひとつグレンのため息が落ちた。

グレンはサラをしばらく見つめた後、サラの前で背を向け腰を落とした。

サラはわけが分からずに、その広い背中を見下ろしていた。

「疲れたならおぶってやる」

「そ、そうじゃありません」

「俺はそんな顔をした女性を一人にできるほど薄情な人間じゃない」

しばらく背を向けていたグレンだったが、いつまでたっても動かないサラに痺れをきらして立ち上がると、サラの手を引く。

迎えの車に乗り込むと、二人は無言のまま館までの道のりを揺られていた。