バルクロに聞きたいことは山のようにあった。

それなのに言葉の代わりに涙が溢れてくる。

「サラ、今まで一人でつらかっただろう? これからは僕を頼って。あの時のように君を守るから」

サラはその言葉に一層胸が詰まり、抱き寄せられるままにバルクロの胸に身を預けしばらく涙した。

「……母のことを、聞かせて」

いつの間にか奇術ショーは終わったのか、辺りはしんと静まっていた。

サラは涙を拭って重い頭を上げ、バルクロを見た。

「いいよ。でも今日は疲れただろう? また明日会おう。君を返さないと怖いご主人様に殴られそうだ」

バルクロはそう言ってサラの額に口付けを落とすと、部屋の外へとサラを連れ出した。

垂れ幕の向こうには腕を組んで手摺に凭れたグレンが待っていた。

「帰ろう」

グレンはそれだけ言うとサラの手を引いて歩き出す。バルクロはその背中を見送りながら「待ってるよ、サラ」そう呟いた。