まるで長い間離れ離れになっていた恋人と再開したようなサラとバルクロの様子に、グレンは腕を組み、イライラと片足の爪先を上げ下げしている。

無理にでも引き剥がしたい気持ちをどうにか抑えたのは、先程ハシリと手を取り合っていた時にそうしてサラを怒らせてしまったからだ。

サラとバルクロは互いに顔見知りのようだ。顔を赤らめているサラを見ればバルクロに好意があることも感じとれる。

そんな二人を邪魔したところで憎まれるだけだろう。

それでも二人が連れ立って出て行こうとするのを黙って見過ごすことなどできない。

グレンはサラの二の腕を掴んで引き止めた。

「どこへ行く?」

「少し、二人で話があるの」

サラは心ここに在らずと言った感じだ。

「そちらは最近この街に来たばかりらしいが、二人は知り合いだったのか?」

「前にいた街で助けてもらったことがあるの。遅くなったらここに泊まって明日の朝帰ります。グレンは先に帰っていてください」

サラはそう言うと身を捩るようにしてグレンの手から逃れた。

グレンは胸騒ぎを覚え、サラを引き止めるために何か言おうとした。けれど身分を隠している以上、そんな権利はどこにもないことに気付いて口を噤んだ。

「待っている」

立ち去る背中にそう声をかけるのが精一杯だった。ちらりと振り返ったバルクロが、唇の端に微かに笑みを浮かべるのを見てグレンは舌打ちした。

無性に腹が立つ。力任せに壁を拳で叩いた音に周りにいた人々が訝しそうに振り向いたが、グレンは構わず近くの椅子を引き寄せて乱雑に腰を下ろした。

一人で帰るつもりなどなかった。

観客席から聞こえてくる拍手の音に舞台に目を向ける。そこには虎を従えた男が手にした松明で輪に火をつけるところだった。

「二人で調べるんじゃなかったのか」

そんな呟きは歓声にかき消された。