「会いたかった……」

バルクロはその細い体でサラをきつく抱きしめ、耳元でそう囁いた。

「あれからずっと探していたんだ。急にいなくなってしまったから」

細く長い両腕がサラの背中を引き寄せる。首筋に擦り寄るように頬を寄せられて、サラは顔が真っ赤になってしまうのを感じた。

柔らかな髪からは花の香りがしている。嫌な気はもちろんしない。一時は想いを寄せていた相手に会いたかったと言われて、のぼせてしまうのは仕方がない。

それでも、グレンの鍛えられた逞しい体とは対照的な華奢な体に、サラはドキドキしながらも頭の中の熱はすぐに引いていく。

「探していたって、何故私を?」

そう問いかければ、バルクロは腕を解いてサラの目を覗き込んだ。

「伝えたいことがあって」

「伝えたいたいこと?」

「ここでは言えない。二人きりで話そう」

バルクロの真摯な青い瞳に見つめられると、サラはあの港町での出来事をまた思い出してしまう。

日暮れの薄暗い港には、濃い潮の香りが立ち込めていた。積み上げられた荷箱の影に隠れた二人は、上がった息を整えながら顔を寄せて笑った。

今思い出してみても、三人もの酔漢からよく逃げられたものだ。

バルクロのシャツは肩から破れてぶら下がっていたし、サラはブラウスのボタンが全て引きちぎられていた。バルクロが頬を染めて目を反らしたことで、慌てて互いに服をかき合わせて立ち上がり、サラは一言お礼を言って逃げるように帰ってきた。

その時、破れた袖の下に見えたバルクロの肩には焼印を押されたような不思議な文様があった。

サラは無意識にバルクロの肩に目をやり、次いでその顔を見上げた。

バルクロが一年以上も探して伝えたいほどのこととは何だろう。それほど親しい間柄でもなかったというのに。

サラはどこか違和感を感じながらも、バルクロから目を離すことができなかった。