ショーが終わって舞台袖に戻ってきた青年は仲間たちからも賞賛を受け照れたように笑っている。

「バルクロ! 凄かったね」

ハシリが駆け寄ると、バルクロは申し訳なさそうに頭をかいた。

「ハシリ、ありがとう。でも僕のせいでナイフ投げができなくなってしまって、本当にすまない」

「バルクロのせいじゃないよ。僕ももっと練習しなくちゃ」

ハシリはふるふると首を振って、脇に下ろしていた両手を握りしめた。

舞台に立てなければハシリは給金を貰えない。しかもバルクロに出番を奪われた形になり、決して笑っていられる状況ではない。

それでもハシリの目には素直にバルクロを賞賛する色が浮かんでいて、サラは胸が痛んだ。

どうにかして、またハシリがナイフ投げができるように手伝ってあげたいと思う。

そのためには、フィにも話を聞いてみなければ。本当にハシリが失敗したのではなく、他に原因があるとすれば、すぐにでもハシリは舞台に立てるようになるだろうと思えた。

バルクロがハシリの肩越しにサラに目をとめると、その目が大きく見開かれた。

「君は……」

サラも間近に見たバルクロの顔に息を飲んだ。肩の上で切りそろえられた金の髪。晴れた日の秋空のように澄み渡った青い瞳。女性と見紛うような線の細い美しい顔立ち。

奇術師バルクロは、サラが船の上で思い出したばかりの初恋の相手だった。