奇術の館では本日最後のショーが始まるところだった。

ハシリのナイフ投げの代わりに、バルクロが舞台に上がることになっていた。

予想外の客足で観客席は満員だった。いつもなら夜のショーは半分席が埋まればいい方だ。

照明が落とされ、スポットライトが舞台中央を照らす。

俯いた紳士の頭上にゆらりと揺れる蔓草で編まれたブランコ。黒い燕尾服の紳士はサッとかぶっていた帽子を投げ上げると、その手でブランコに掴まった。

ブランコは空中高く舞い上がり、大きく揺れ始める。

明るくなった舞台には花が舞い、あやつり人形が降りてきた。

紳士はあやつり人形の手をとってブランコから飛び降りる。

そのまま空中を駆け上がり一回転すると、一瞬にして紳士は消え、そこには美しい青年が立っていた。

客席から拍手が沸き起こる。

青年はにこりと微笑んでお辞儀をすると、ポケットから取り出したカードを器用にさばき、床に落ちた帽子の中へ投げ入れていく。

吸い込まれるように入っていったカードは白い鳩に変わって帽子を飛び出した。

青年は帽子に触れることなくそのマジックをやって見せた。

再び大きな拍手に包まれる。

その間、サラは舞台袖で縫いとめられたように立ちすくんでいた。