久しぶりにソマン川を下る船に乗って、夕闇に包まれていく街を見たサラは、改めてバランの街の美しさに見入っていた。
「この船は本当に素敵。この街も……」
風に髪を靡かせてそう呟くサラの隣で、グレンは「そうかな」と痛みをこらえるかのように目を閉じた。
夕餉の支度をする煙があちこちから空にのびて解けていく。街は静かで、川の上を滑るように進む船もまた静かだった。
サラはグレンの複雑な表情に気付いたけれど、問い返すことはしなかった。グレンにとってサラに構うことはほんの息抜きに過ぎない。そんな思いがグレンを知りたいという思いに歯止めをかける。
――深入りして傷付くのは嫌。すぐにこの街からも出て行くかもしれないんだから。
サラは無理やり自分にそう言い聞かせる。
この街に来る前、大きな港町の片隅で占い師をやっていた頃、サラは淡い初恋をしたことがあった。
とても綺麗な男の子だった。サラより少し歳は上だったはずだ。
肩の上で切りそろえられた金の髪は輝くようで、大きな青い瞳はいつも明るく輝いていた。
名前も知らない。彼は小さな薬店の配達係で、たまに顔を合わせれば挨拶をする程度の仲だった。
ただ一度だけ、サラが酔っ払いに絡まれて困っていたところを助けてくれたことがあった。女の子のように繊細な見た目をしている青年だったが、倍もありそうな体格の男を一瞬で弾き飛ばしサラを救い出してくれた。
その後すぐに母を見たという話を聞いて街を出たために、ろくにお礼もできなかった。
しばらく忘れていた出来事を思い出したのは、船着場の感じがあの海辺の街を思い起こさせたからだろうか。
何も言わずに景色をじっと見ていたサラの横顔を、グレンはどこか寂しそうに見ていた。
「この船は本当に素敵。この街も……」
風に髪を靡かせてそう呟くサラの隣で、グレンは「そうかな」と痛みをこらえるかのように目を閉じた。
夕餉の支度をする煙があちこちから空にのびて解けていく。街は静かで、川の上を滑るように進む船もまた静かだった。
サラはグレンの複雑な表情に気付いたけれど、問い返すことはしなかった。グレンにとってサラに構うことはほんの息抜きに過ぎない。そんな思いがグレンを知りたいという思いに歯止めをかける。
――深入りして傷付くのは嫌。すぐにこの街からも出て行くかもしれないんだから。
サラは無理やり自分にそう言い聞かせる。
この街に来る前、大きな港町の片隅で占い師をやっていた頃、サラは淡い初恋をしたことがあった。
とても綺麗な男の子だった。サラより少し歳は上だったはずだ。
肩の上で切りそろえられた金の髪は輝くようで、大きな青い瞳はいつも明るく輝いていた。
名前も知らない。彼は小さな薬店の配達係で、たまに顔を合わせれば挨拶をする程度の仲だった。
ただ一度だけ、サラが酔っ払いに絡まれて困っていたところを助けてくれたことがあった。女の子のように繊細な見た目をしている青年だったが、倍もありそうな体格の男を一瞬で弾き飛ばしサラを救い出してくれた。
その後すぐに母を見たという話を聞いて街を出たために、ろくにお礼もできなかった。
しばらく忘れていた出来事を思い出したのは、船着場の感じがあの海辺の街を思い起こさせたからだろうか。
何も言わずに景色をじっと見ていたサラの横顔を、グレンはどこか寂しそうに見ていた。