小さなテーブルを挟んで向かいの椅子にサラも座り、詳しく話してと言えば、ハシリはぽつりぽつりと話し始めた。

新しく奇術の館にきた奇術師は名をバルクロと言って、二十代半ばの青年だという。

外の街からやって来たらしく、ザダの門の近くで仕事を探していたバルクロは、フィの誘いで奇術の館にやってきた。

そしてハシリのナイフ投げを気に入って、人間を的にして立たせてはどうかと提案した。たまたまそばにいたフィが座長に言われて的になった。

奇術の館でハシリのナイフ投げの腕を疑う者などいない。

フィもハシリを信頼して的になった。

「練習中に、僕の投げたナイフがフィ姉さんの肩に刺さったんだ」

それだけなら練習中の事故だ。けれど、ハシリは決して失敗などしていなかった。

「勝手にナイフが逸れて……。そんなこと言ったら言い訳だってみんなに言われて。本当に僕は失敗なんかしてない。でもこのままじゃ僕はもうナイフを投げられないよ。自分で自分を信じられないんだ」

「フィ姉さんの怪我はどんな具合なの?」

「バルクロが治したよ」

「治した?」

「うん、バルクロはザダの門のところでも怪我した人を助けたらしいんだ。凄く良く効く薬を持ってるんだって」

このくらいの綺麗な箱に入ってると言って、ハシリは手で空中に小箱の形を描いて見せた。


「そのバルクロという人は奇術師なの?」

「うん。まるで魔法使いみたいだよ。何もない所から花や鳥を出すのはお手の物だし、空中に飛んでる風船を手元に引き寄せたり、消えたと思ったら舞台の反対側から現れたり。誰もトリックを見破れないんだ」