ちょうどサラの仕事が終わる時間に、エドニーは洗濯室に現れた。
サラは慌ててバッグの中から小箱を取り出した。
「この箱は君個人の物ですか?」
エドニーが眉をひそめる。
「預かり物なんです。その方が鍵は領主様がお持ちだと……」
サラは不安になりながらエドニーの表情を見ていた。
「やはりこの箱の鍵穴に合うような鍵は私の知る限りここにはないですね。ただ」
エドニーは真剣に箱を観察しながら何か思い出したようにサラを見た。
「領主様がお持ちだと言うのなら、子どもの頃領主様が庭に埋めた箱の中にあるかもしれません」
「庭に?」
「よくやるでしょう、子どもたちがおもちゃを持ち寄って木の下などに埋めておき、何十年か後に取り出すというあれです」
サラはエドニーの説明に曖昧にうなずいた。引越しを繰り返しているサラにはおもちゃを埋めた事などなく、そんな話を聞いたのも初めてだった。
「その箱はいつ開けるんですか?」
鍵があるかどうか調べるために掘り返していいような物でないことは、エドニーの話から察せられた。
「まだずっと先の予定です。少なくともあと二十年は土の下ですね」
「そんな……」
あまりに遠い話にサラは落胆せずにはいられなかった。中に何かがいると分かっている以上、箱を壊すわけにもいかない。
「まぁ、このくらいなら鍵などなくても開けられそうですが」
「え? 鍵なしでどうやって?」
「今ここでやってみますか?」
エドニーは相変わらず表情を変えずにさらりとそう言った。けれど中から何が出てくるか分からない。ここで開けるのは危険だ。
「待ってください。ここではちょっと……。どこか人のいない所で」
「では先程の書庫へ」
二人が洗濯室を出て書庫へ向かう途中、マチルダが来客を告げにきた。
「アシュリー捜査官がお見えです」
「珍しいな。しばらく待たせておいてください」
そう答えたエドニーに、マチルダはサラの方をちらちらと窺いながら続けた。
「それがサラに用があるそうなんです」
サラはアシュリーの紹介で領主の館でメイドとして働くことになった。アシュリーがちゃんと働いているかどうか様子を見に来たとしても不思議ではない。けれど、直後に駆け込んできたアシュリーの様子からそうではないことが分かった。
「サラ! 無事か? 昨日から探していたんだぞ」
昨日、ハイディにサラの様子を見てきて欲しいと頼まれたアシュリーが奇術の館に着いた時には、サラはグレンと出かけた後だったため行き違いとなった。
今朝は今朝で船で出勤したことを知らないアシュリーは待ちぼうけをくらい、本業の方でも手が離せずようやくここまで来たのだった。
「どうしたんですか、アシュリー捜査官。そんなに慌てて」
アシュリーはサラの持っていた小箱に目を留めると、サラの手から箱を奪い取った。
「これがハイディの言ってた箱か?」
「ハイディをご存知なんですか?」
アシュリーは睨むように険しい顔で箱をひっくり返しながら確認している。エドニーはそんなアシュリーをしばらく黙って見ていたが、やがて痺れを切らしたように人差し指でアシュリーの胸を突いた。
「アシュリー、どういうことか事情を説明したまえ」
アシュリーはムッとしたようにエドニーを睨み返す。
「サラが無事ならそれでいい」
睨み合う二人の間で、サラは何故アシュリーが自分のことを心配しているのかも分からずただ困惑するばかりだった。
「何を騒いでいるんだ?」
聞き覚えのある声に振り返ればそこにグレンの姿があった。
「グレン、……何故ここに?」
グレンも驚いたようにサラを見ていた。
「何故君がここに?」
「先日アシュリーの紹介で雇い入れたランドリーメイドです。お知り合い、でしたか?」
エドニーがグレンにそう説明し、サラに向かって「こちらが領……」と言いかけたところで思い切り顔をしかめた。
グレンがエドニーの袖を引っ張っている。その指が袖だけでなくエドニーの二の腕の肉も思い切り摘んでいることは二人しか知らない。
「で、ここで何をしているんだ?」
階段の吹き抜けにある大きな窓から午後の光が差し込んでいる。
グレンはサラがランドリーメイドとして働いていることを知らなかったことでおおいに不機嫌だった。メイドの管理はエドニーに一任しているし、サラでなければ心が乱れることもないのだが、後で一言言っておかなければ気が済まないと、忠実な秘書を笑顔の奥で睨みつけた。
主人の理不尽な怒りを買いながらも、エドニーは何食わぬ顔で簡単に箱のことを説明し、アシュリーがそこに「不気味な箱だ」としかつめらしい顔で付け加えた。
「ならば庭に埋めた箱を堀りだそう」
「領主様のお許しもなくそのようなことはできません」
サラが慌てて首を振る。アシュリーがそれを聞いて不思議そうに「今本人がいいと言ったのに」と言おうとしたが、
グレンに足の甲を思い切り踏みつけられて声にならなかった。
グレンはエドニーとアシュリーを押しのけるようにしてサラの隣に立つとサラの手の中にある箱をよく見ようと身を屈めた。
相変わらずグレンからはエキゾチックな香水の香りがした。決して嫌いではない。サラにとって寧ろ好ましい匂いだった。
そのせいか胸の鼓動が早くなったような気がする。
「もしかしてリリアのオルゴール?」
「いえ、似ているけど違うそうです」
「そうか」
サラが小箱を捧げ持つように顔の前まで持ち上げる。グレンによく見えるようにと思ってのことだったが、不意に箱が飛び跳ねた。
床に落ちる寸前にグレンが片手を伸ばして受け止めたため、小箱は無事にサラの手に戻った。
「すみません。ありがとうございます」
「今、その箱勝手に動いたように見えたけど」
サラしか気付いていないと思っていたことを、アシュリーは見逃していなかった。さすがは捜査官というべきだろうか。
「中に何かいるみたいなんです」
さらはグレンにだけ聞こえるように声をひそめてそう言った。
「なら、尚更開けてみる必要があるな。この箱はいったいどこで手に入れたんだ?」
サラはアシュリーの顔をちらりと窺った。アシュリーはハイディからどこまで聞いているのだろう。
「お客さんから預かったんです。リリアのオルゴールに似ていたもので。リリアのオルゴールの鍵で開けられないか試してもみたんですが駄目でした」
「そう。でもそれと領主がその箱の鍵を持っているという話はどう繋がるのかな?」
グレンにそう問われて、サラは答えに詰まる。グレンを誤魔化すことはできなさそうだった。
結果的にハイディが領主との結婚を望んでいるという点を除いて、サルマンホテルでハイディが怪しい女性に出会ったところから話すことになった。
「何故その話を俺に相談しなかったんだ。昨日会った時にいくらでも話せたはずだ。俺はそんなに信用ならないのか?」
グレンの目が明らかに怒っている。サラも相談したい気持ちがなかったわけではない。仕事上、秘密の扱いには慎重にならざるを得ないだけなのだ。
そう言い訳することもできたけれど、サラはおとなしく謝ることにした。
グレンもすぐに言い過ぎたと後悔した。ちょっとイライラしていたせいだ。サラが新しい仕事を掛け持ちではじめたと聞いた時に、もう少し話を聞いておけば良かったのだ。幸いサラにはまだ自分が領主だと知られてはいない。そう思い直して、グレンはサラの肩に手を置いた。
「領主とここにいる三人は幼馴染でね。領主には俺から話すから心配ない。庭の木の下を掘り返してみよう。その箱の鍵が出てくるかもしれない。さぁ行こう」
エドニーがその必要はないというのも聞かず、グレンはサラの肩を押してさっさと歩き出す。
「エドニー、スコップを用意してくれ。アシュリーはもう仕事に戻った方がいいんじゃないか?」
サラの肩越しに後ろの二人に投げられた言葉は、あまり仲が良くないと思われたエドニーとアシュリーを結託させるのに十分な効果を発揮した。
「すぐにバレるのに、何故隠すんだ」
「後でサラを怒らせることになっても自業自得です」
そんな二人の声は前を歩いていく二人には届いていなかった。
掘り出されたブリキの缶は、中に雨水が入ってしまったようで中身は見る影もなかった。
アシュリーは何故か安堵したようにほっと息を吐き、エドニーは眉をひそめて庭師に中身を確認するよう指示している。
ソマン川が近くを流れていた。川沿いの並木は美しく手入れされ、初夏の陽射しを柔らかく遮っている。
青々とした芝生の庭が広がり、その向こうに瀟洒な領主の館が聳え立っていた。青空にくっきりと浮かび上がるそのシルエットは、何度も見たあの手鏡の中の絵と同じ向きでそこにあった。
母はまさにこの場所に立っていたに違いない。サラはそう確信し立ちすくんでいた。
「どうかした?」
グレンがサラの顔を覗き込むと、遠くを見ていたサラの視線が揺れながらグレンの眼をゆっくりと捉えた。
「いえ、あまりに綺麗で……」
「古いだけの建物だ。でも君が気に入ったなら悪くはないな」
ただ古いだけだといいながら、グレンの声には暖かな慈しみが込められているように感じて、サラはそっと目を伏せた。
会う度に惹かれていくのを感じる。いくらグレンが優しくしてくれたとしても、自分のような流れ者が本気で思っていい相手ではない。
グレンは領主の館に気軽に出入りできる身分なのだと知って、サラは尚更グレンに頼るのはこれで最後にしようと決意した。
「グレンたちはここで子どもの頃に遊んでいたんですね」
「そうだな。夏は特によくそこの川で遊んだものだよ」
グレンが視線を送った先で庭師が「ありました!」と手を振り上げた。川の水で缶の中身をすすいでいたようだ。
その手にキラリと光る物が握られている。
サラの手の中で小箱がカタカタと震えていた。
サラは慌ててバッグの中から小箱を取り出した。
「この箱は君個人の物ですか?」
エドニーが眉をひそめる。
「預かり物なんです。その方が鍵は領主様がお持ちだと……」
サラは不安になりながらエドニーの表情を見ていた。
「やはりこの箱の鍵穴に合うような鍵は私の知る限りここにはないですね。ただ」
エドニーは真剣に箱を観察しながら何か思い出したようにサラを見た。
「領主様がお持ちだと言うのなら、子どもの頃領主様が庭に埋めた箱の中にあるかもしれません」
「庭に?」
「よくやるでしょう、子どもたちがおもちゃを持ち寄って木の下などに埋めておき、何十年か後に取り出すというあれです」
サラはエドニーの説明に曖昧にうなずいた。引越しを繰り返しているサラにはおもちゃを埋めた事などなく、そんな話を聞いたのも初めてだった。
「その箱はいつ開けるんですか?」
鍵があるかどうか調べるために掘り返していいような物でないことは、エドニーの話から察せられた。
「まだずっと先の予定です。少なくともあと二十年は土の下ですね」
「そんな……」
あまりに遠い話にサラは落胆せずにはいられなかった。中に何かがいると分かっている以上、箱を壊すわけにもいかない。
「まぁ、このくらいなら鍵などなくても開けられそうですが」
「え? 鍵なしでどうやって?」
「今ここでやってみますか?」
エドニーは相変わらず表情を変えずにさらりとそう言った。けれど中から何が出てくるか分からない。ここで開けるのは危険だ。
「待ってください。ここではちょっと……。どこか人のいない所で」
「では先程の書庫へ」
二人が洗濯室を出て書庫へ向かう途中、マチルダが来客を告げにきた。
「アシュリー捜査官がお見えです」
「珍しいな。しばらく待たせておいてください」
そう答えたエドニーに、マチルダはサラの方をちらちらと窺いながら続けた。
「それがサラに用があるそうなんです」
サラはアシュリーの紹介で領主の館でメイドとして働くことになった。アシュリーがちゃんと働いているかどうか様子を見に来たとしても不思議ではない。けれど、直後に駆け込んできたアシュリーの様子からそうではないことが分かった。
「サラ! 無事か? 昨日から探していたんだぞ」
昨日、ハイディにサラの様子を見てきて欲しいと頼まれたアシュリーが奇術の館に着いた時には、サラはグレンと出かけた後だったため行き違いとなった。
今朝は今朝で船で出勤したことを知らないアシュリーは待ちぼうけをくらい、本業の方でも手が離せずようやくここまで来たのだった。
「どうしたんですか、アシュリー捜査官。そんなに慌てて」
アシュリーはサラの持っていた小箱に目を留めると、サラの手から箱を奪い取った。
「これがハイディの言ってた箱か?」
「ハイディをご存知なんですか?」
アシュリーは睨むように険しい顔で箱をひっくり返しながら確認している。エドニーはそんなアシュリーをしばらく黙って見ていたが、やがて痺れを切らしたように人差し指でアシュリーの胸を突いた。
「アシュリー、どういうことか事情を説明したまえ」
アシュリーはムッとしたようにエドニーを睨み返す。
「サラが無事ならそれでいい」
睨み合う二人の間で、サラは何故アシュリーが自分のことを心配しているのかも分からずただ困惑するばかりだった。
「何を騒いでいるんだ?」
聞き覚えのある声に振り返ればそこにグレンの姿があった。
「グレン、……何故ここに?」
グレンも驚いたようにサラを見ていた。
「何故君がここに?」
「先日アシュリーの紹介で雇い入れたランドリーメイドです。お知り合い、でしたか?」
エドニーがグレンにそう説明し、サラに向かって「こちらが領……」と言いかけたところで思い切り顔をしかめた。
グレンがエドニーの袖を引っ張っている。その指が袖だけでなくエドニーの二の腕の肉も思い切り摘んでいることは二人しか知らない。
「で、ここで何をしているんだ?」
階段の吹き抜けにある大きな窓から午後の光が差し込んでいる。
グレンはサラがランドリーメイドとして働いていることを知らなかったことでおおいに不機嫌だった。メイドの管理はエドニーに一任しているし、サラでなければ心が乱れることもないのだが、後で一言言っておかなければ気が済まないと、忠実な秘書を笑顔の奥で睨みつけた。
主人の理不尽な怒りを買いながらも、エドニーは何食わぬ顔で簡単に箱のことを説明し、アシュリーがそこに「不気味な箱だ」としかつめらしい顔で付け加えた。
「ならば庭に埋めた箱を堀りだそう」
「領主様のお許しもなくそのようなことはできません」
サラが慌てて首を振る。アシュリーがそれを聞いて不思議そうに「今本人がいいと言ったのに」と言おうとしたが、
グレンに足の甲を思い切り踏みつけられて声にならなかった。
グレンはエドニーとアシュリーを押しのけるようにしてサラの隣に立つとサラの手の中にある箱をよく見ようと身を屈めた。
相変わらずグレンからはエキゾチックな香水の香りがした。決して嫌いではない。サラにとって寧ろ好ましい匂いだった。
そのせいか胸の鼓動が早くなったような気がする。
「もしかしてリリアのオルゴール?」
「いえ、似ているけど違うそうです」
「そうか」
サラが小箱を捧げ持つように顔の前まで持ち上げる。グレンによく見えるようにと思ってのことだったが、不意に箱が飛び跳ねた。
床に落ちる寸前にグレンが片手を伸ばして受け止めたため、小箱は無事にサラの手に戻った。
「すみません。ありがとうございます」
「今、その箱勝手に動いたように見えたけど」
サラしか気付いていないと思っていたことを、アシュリーは見逃していなかった。さすがは捜査官というべきだろうか。
「中に何かいるみたいなんです」
さらはグレンにだけ聞こえるように声をひそめてそう言った。
「なら、尚更開けてみる必要があるな。この箱はいったいどこで手に入れたんだ?」
サラはアシュリーの顔をちらりと窺った。アシュリーはハイディからどこまで聞いているのだろう。
「お客さんから預かったんです。リリアのオルゴールに似ていたもので。リリアのオルゴールの鍵で開けられないか試してもみたんですが駄目でした」
「そう。でもそれと領主がその箱の鍵を持っているという話はどう繋がるのかな?」
グレンにそう問われて、サラは答えに詰まる。グレンを誤魔化すことはできなさそうだった。
結果的にハイディが領主との結婚を望んでいるという点を除いて、サルマンホテルでハイディが怪しい女性に出会ったところから話すことになった。
「何故その話を俺に相談しなかったんだ。昨日会った時にいくらでも話せたはずだ。俺はそんなに信用ならないのか?」
グレンの目が明らかに怒っている。サラも相談したい気持ちがなかったわけではない。仕事上、秘密の扱いには慎重にならざるを得ないだけなのだ。
そう言い訳することもできたけれど、サラはおとなしく謝ることにした。
グレンもすぐに言い過ぎたと後悔した。ちょっとイライラしていたせいだ。サラが新しい仕事を掛け持ちではじめたと聞いた時に、もう少し話を聞いておけば良かったのだ。幸いサラにはまだ自分が領主だと知られてはいない。そう思い直して、グレンはサラの肩に手を置いた。
「領主とここにいる三人は幼馴染でね。領主には俺から話すから心配ない。庭の木の下を掘り返してみよう。その箱の鍵が出てくるかもしれない。さぁ行こう」
エドニーがその必要はないというのも聞かず、グレンはサラの肩を押してさっさと歩き出す。
「エドニー、スコップを用意してくれ。アシュリーはもう仕事に戻った方がいいんじゃないか?」
サラの肩越しに後ろの二人に投げられた言葉は、あまり仲が良くないと思われたエドニーとアシュリーを結託させるのに十分な効果を発揮した。
「すぐにバレるのに、何故隠すんだ」
「後でサラを怒らせることになっても自業自得です」
そんな二人の声は前を歩いていく二人には届いていなかった。
掘り出されたブリキの缶は、中に雨水が入ってしまったようで中身は見る影もなかった。
アシュリーは何故か安堵したようにほっと息を吐き、エドニーは眉をひそめて庭師に中身を確認するよう指示している。
ソマン川が近くを流れていた。川沿いの並木は美しく手入れされ、初夏の陽射しを柔らかく遮っている。
青々とした芝生の庭が広がり、その向こうに瀟洒な領主の館が聳え立っていた。青空にくっきりと浮かび上がるそのシルエットは、何度も見たあの手鏡の中の絵と同じ向きでそこにあった。
母はまさにこの場所に立っていたに違いない。サラはそう確信し立ちすくんでいた。
「どうかした?」
グレンがサラの顔を覗き込むと、遠くを見ていたサラの視線が揺れながらグレンの眼をゆっくりと捉えた。
「いえ、あまりに綺麗で……」
「古いだけの建物だ。でも君が気に入ったなら悪くはないな」
ただ古いだけだといいながら、グレンの声には暖かな慈しみが込められているように感じて、サラはそっと目を伏せた。
会う度に惹かれていくのを感じる。いくらグレンが優しくしてくれたとしても、自分のような流れ者が本気で思っていい相手ではない。
グレンは領主の館に気軽に出入りできる身分なのだと知って、サラは尚更グレンに頼るのはこれで最後にしようと決意した。
「グレンたちはここで子どもの頃に遊んでいたんですね」
「そうだな。夏は特によくそこの川で遊んだものだよ」
グレンが視線を送った先で庭師が「ありました!」と手を振り上げた。川の水で缶の中身をすすいでいたようだ。
その手にキラリと光る物が握られている。
サラの手の中で小箱がカタカタと震えていた。