賑やかな音楽が聞こえてくると、子どもたちは連れ立ってそちらへ走っていった。

奇術の館から今日もハシリたちが訪れていた。もうショーの花形であるバルクロはいない。バルクロもまたバランを出てベイルの街へ帰ったことになっている。

サラは朝一番にバルクロからの伝言をハシリに伝えていた。

今、舞台の上ではハシリがナイフ投げを見せていた。

以前と同じように正確に的の中心を射抜く鮮やかなナイフ捌きに拍手が沸き起こる。

サラに気付いて笑みを見せたハシリにサラは手を振った。

庭に客人たちが集まっている間に、邸の裏から黒狼たちは林に向かって移動する手筈になっている。

案内役を買ってでたのは伯爵だった。しばらくの間彼らとともに林の中の別荘で暮らすという。

何かあったとしても伯爵なら上手く収めてくれるだろう、というのがグレンの見解だった。

全てが順調に進んでいた。

ショーも一区切りついた頃、お腹を空かせた子どもたちがテーブルに戻ってくると、サラはそっとテーブルを離れた。

グレンは何か食べただろうかと、領主とその親族たちのいる席の方をうかがえば、グレンが席を立つところだった。

いつもよりその存在を遠くに感じて、サラは寂しさを感じていた。母もバルクロも遠くへ行ってしまった。奇術の館の仲間たちはそれぞれにショーの片付けなどに忙しくしている。

ハイディとアシュリーもふたりで会話に花を咲かせていた。

サラは急に自分の居場所がなくなったような気がした。ローラを探すためにこの邸で働くことにしたが、もうその必要はなくなった。

また奇術の館に戻ってもいいだろうか。そんなことを考えている間に、グレンはまっすぐにサラに向かって歩いてくる。