リリアとアレンを送り届けたグレンとサラにはまだやることが残っていた。

黒狼と彼が引き連れてきた魔物たちのこれからについて考えることだ。

「ジナ川の向こうの林に使っていない建物がある。ひとまずはそこで暮らせるように手配しよう。それと、しばらくの間は人が近付かないように見張りを置く必要がある」

グレンは次々とやるべきことを書き出していく。

サラは黒狼たちの未来を占いつつ、必要なものがあればグレンに伝え、エドニーと詳細を話しあっている間に夜食を用意したりした。

「今日のところはこれぐらいで終わりにしよう。仮眠をとったら姉上たちと話し合う。その後は予定通り庭で食事会をする」

グレンがエドニーを解放する頃には、サラは長椅子で眠ってしまっていた。

グレンはサラを抱き上げ、起こさないようにそっと隣室のベッドへと運んだ。

サラと出会ってから立て続けにいろんなことが起きた。ひとつひとつを思い返しながら、グレンは口元に笑みを浮かべていた。

これまで領主としての仕事をこなす毎日に飽き飽きしながら、檻に捕らわれた虜囚のように生きてきた。

それがサラと出会ってからは、まるで別の世界にきたように毎日が輝いている。

グレンはそっとサラの寝顔を覗き込んだ。

あの日サランディールの占い部屋で、サラの指先から流れる血をグレンは確かに口にした。

あの瞬間からグレンの運命はサラのものだった。

「血の契約、か……」

エレインの言った不穏な言葉でさえ、グレンにとっては甘美な響きに聞こえた。

サラがこの邸で占いをする度に流し続けた血は、邸全体を包み込む魔力となって働いている。

そのせいでエレインの血は吸血鬼を縛る契約とはならなかった。

伯爵がグレンにだけこっそり教えてくれたその事実に、グレンはふっと笑いがこぼれた。

「君には驚かされてばかりだ」

いつの間にか窓の外は白み始めていた。グレンはサラの額にそっと口付けを落とした。