「サラ、私の未来を占ってみて」

動こうとしないサラにローラはそう言ったが、サラは左右に首を振った。

「こんな時に占いなんて……。私の占いはポンコツよ。今までお母さんの居場所すら占えなかったもの」

「今なら大丈夫」

自信に溢れた凛としたローラの佇まいに気圧されるように、サラは目を閉じた。

これまで何度やっても母のことは何一つ見えなかったのに、今はすんなりとローラの姿が浮かび上がった。

隣にはバルクロがいる。そしてサラとグレンもいた。ソマン川を走る船に乗ってバランの街を眺めている。

「見えたでしょ? 今は離れてもまたすぐに会えるわ」

ローラはサラの髪を撫で、サラの目尻に浮かんだ涙を拭った。

「未来は変わるわ。今は互いにやるべき事をやりましょう。あなたはこの街で、私たちは向こうの世界で。それが一番の近道よ。エレインとヴィルヘルムも向こうの世界へつれて行くわ」

迷いも曇りもないローラの笑顔に、サラはようやくそこから一歩を踏み出すことができた。

二人はもう一度抱き合って互いに無事を祈った。バルクロはそんな二人を包み込むように抱きしめた。

「僕とローラで扉を閉めてみせるよ。向こうが落ち着いたら必ずここに戻ってくる」

「その時はお父さんて呼ぶわ」

サラははにかんだように俯いてそう言った。

バルクロはサラの言葉に目を見開き、みるみる涙を浮かべた。慌てて指先で目頭を押さえると、真っ赤な目でグレンを睨んだ。

「必ず帰ってくるからな。それまでお前に娘を預ける。サラを泣かせたら許さないからな!」

呆れたようなローラの眼差しに、バルクロは慌ててそっぽをむいた。

「サラは必ず守ると約束します」

グレンは二人に会釈すると、リリアを抱き上げ先に立って歩いた。サラはグレンに促され、アレンの手を引いて部屋の出口へと向かう。

戸口で振り返ると、ローラの肩を抱き寄せたバルクロが手を振っていた。そして思い出したように言った。

「サラ、ハシリに謝っておいてくれないか。ハシリはナイフ投げで失敗なんかしていない。あれは僕のせいだったんだ」

「どうしてそんなことを?」

「君が奇術の館で働いていると聞いて、一緒にいたかったんだ。そのためにハシリを利用した。悪かったと思ってる」

サラは驚きながらも頷いた。そのことを知ればハシリはまた舞台に立てるようになるかもしれない。

「サラ、またね」

ローラとバルクロに見送られてサラたちは部屋を出ると、再び守衛小屋を通って邸へと戻った。