「怖い?」

サラはしゃがみこんでアレンの背を撫でた。

「すごく強そうだね……。でも頑張るよ。僕、挨拶してくる」

それでもアレンは勇気を振り絞るように一度ぶるりと体を震わせると、ゆっくりと黒狼の方へ歩み寄っていった。

黒狼はその様子をじっと見ている。

ふたりの間で会話が交わされているのかどうか、サラには分からなかった。

長い時間見つめあった後、アレンはするりと人間の姿に戻ってサラを見上げた。

「どう?」

「僕たちに力を貸してくれるって。でもその代わり、誰かに向こうの世界に行って欲しいって言ってる」

「どういうこと?」

「向こうの世界にいる仲間たちが心配だって。彼はすぐに向こうに戻るつもりだったみたい。でもこっちで仲間の面倒をみるなら、代わりに誰かに行って欲しいって」

サラは黒狼に目を向けた。

落ち着いた深い瞳には知性が見てとれる。

黒狼の力を借りなければ、グレンの部屋に開いた扉からこちらの世界へ押し寄せてくる魔物たちと人間の間に争いが起きるのを止めるのは難しくなるだろう。

「みんなを向こうに連れて帰ることはできないのかしら」

サラの言葉を理解したのか、黒狼はアレンに何かを伝えてきたようだった。

「逆だって。向こうの世界はもうあまり長く持たないかもしれない。向こうに戻るなら世界を支える魔女が必要だって」

サラは少し考えたあと頷いた。

「分かったわ。私が行く。だからお願いしますって伝えてくれる?」