アレンはすぐに何かの臭いを嗅ぎつけ、エレインのいる所まで走っていった。

「リリアのオルゴールを奪っていった奴の臭いだ」

そう言ってサラたちを振り返った。やはり奏での箱を奪っていったのはエレインだったのだ。エレインのそばにはヴィルヘルムが斜めに腰かけてその顔を心配そうに覗き込んでいた。

グレンは柩のそばから奏での箱を持ってくると、それをリリアに渡した。

「リリアのオルゴールだ。遅くなってすまない」

リリアはパッと顔を輝かせてそのオルゴールを胸に抱きしめた。

「リリア、この地下室にいる間はその蓋を開けないでいてくれるかな」

グレンの頼みにもリリアは素直に頷いた。

その様子に占いで見たハンナとグレンの姿が重なったけれど、グレンの言葉はあの時聞いた言葉とは正反対のものだった。

あれもエレインがしたことだったのだろうか。そう考えていると、不意に蝋燭の灯りがゆらりと揺らめいた。

「この柩には吸血鬼が眠っている。そのオルゴールの音を聞かせれば目覚めるだろう。きっと君を助けてくれる」

突然聞こえてきたのはあの時ハンナに語りかけていた声だった。

「これはどういうこと?」

呆然とするサラにグレンも首を傾げている。グレンは直ぐに声のした方へ足を向けると、柩の辺りを調べ始めた。

「もしかしたら柩に仕掛けがしてあるのかもしれない」

グレンがそう言った時、

「まさにその通りだ。私を目覚めさせたお前たちに褒美をやろう」

声と共に現れたのはすっかり人間の姿を取り戻した伯爵だった。エレインの血によって力を取り戻したせいか、今は吸血鬼ではなく普通の人間に見えた。

しかもその隣には黒狼を従えている。

「暴れていたのでな、おとなしくさせておいた」

伯爵はそう言って黒狼の背を撫でた。先程突然姿を消したのはその為だったのかと、サラとグレンは顔を見合わせた。

グレンの後ろで成り行きを見守っていたアレンは、黒狼を見て体を震わせていた。体格が倍ほども違う。子どものアレンからすればいくらおとなしくなっていると言われたところで、恐ろしいに違いない。