エレインは気を失っており、長椅子でぐったりとしていた。

癒しの箱があれば今すぐにでも助けられるものの、残念ながら箱は魔物たちのひしめく部屋の中に取り残されている。

グレンが黒狼を交わしながら部屋の外に持ち出せたのは奏での箱のみだった。

ふとバルクロの姿を探して振り返った二人は、そこで睨み合うバルクロとヴィルヘルムの姿を見つけた。

ヴィルヘルムはエレインが気になるのかこちらをうかがいながらも、バルクロに足止めされて動けないようだった。

「お前の主人は何をしようとしてる!?」

バルクロはヴィルヘルムに詰め寄る。

「箱の中に閉じ込められていた俺様が知るわけないだろ?」

「じゃあ箱の番人としてのお前に聞くが、奴らをこっちの世界で野放しにするのか?」

「彼らは元々こちらの世界の住人だ。向こうに送り込んだのは貴様だろう」

「あんな風に言葉も通じないような奴らじゃなかった……。なんでこんなことになったんだ」

「向こうの世界では魔女が長い眠りについたせいで、秩序が保たれなくなった。人間のように科学を発達させようなんて考えない輩ばかりだからな。全ては魔法頼みだったのに、魔女はいない」

「魔女はどうしたんだ?」

「さぁ、詳しいことは知らない。とにかく、奴らにとってもこっちの世界の方が幸せだってことさ」

二人の会話を聞いていたサラは黙っていられずに口を挟んだ。

「どうにかして彼らと話せないかしら」

ヴィルヘルムは驚いたようにサラを見ると、腕を組んで考え込む素振りを見せた。

「初めに飛び出した黒狼なら、あるいはまだ知性が残っているかもしれない」

「こちらの世界で暮らすなら、闇雲に飛び出して行ってはダメだわ。銃で撃たれたらおしまいよ」

サラはアレンを占った時のことを思い出していた。

占い通りならアレンはサルマンホテルの支配人に銃で撃たれていた。

そうならなかったのは、グレンと二人でアレンを助けたからだった。