「あっ……」

エレインは一度身を仰け反らせると、ふらりと体を傾がせた。

サラはエレインの腕を自分の方へと強く引き寄せた。早く吸血鬼から引き剥がさなければエレインは血を失い過ぎて危険な状態になる。

サラはエレインの体を支えきれず、二人は勢いよく棚にぶつかって倒れた。倒れてくる棚から二人を庇うようにグレンが覆いかぶさる。

いくつもの硝子器が棚から落ちて割れ、派手な音を響かせた。

次の瞬間、グレンの心臓が大きく脈打った。

サラの頬や腕を掠めた硝子が、小さな傷を作っていた。

赤い宝石のように盛り上がる血が、グレンの目を金色に輝かせる。

「なによ、あんたが先に血の契約を結んでたってわけ?」

エレインは苦しげな息の下でそう呟いた。

「血の……契約?」

「魔女の血はね、吸血鬼にとって最高のご馳走なの」

エレインはゆっくりと体を起こし、吸血鬼に向かって手を伸ばした。

「もうやめてください。それ以上血を流したら死んでしまいます」

サラがエレインの腕を押さえるも、エレインはその手を振り払った。

「伯爵様、私と一緒にこの街を吸血鬼の街にしましょう」

吸血鬼は憐れむような目でエレインを見下ろしていた。

「吸血鬼の街? そんなものを望んでいたなら私は今ここにはいなかっただろう。この意味が分かるか」

エレインは目がかすむのか、瞬きを繰り返し左右に首を振って吸血鬼を見上げた。

「では何をお望みですか」

「私が望むのはただ安らかな眠りだよ」

吸血鬼はそう言うと、エレインの傍に片膝をつき、その体を軽々と抱え上げた。