目的のものを見つけた吸血鬼の動きは、先程まで眠っていたとは思えない程の素早さだった。

グレンは急いでその後を追いかけた。

「サラ!」

バルクロの叫び声に、グレンは部屋の中へ飛び込む。

間一髪のところでサラと吸血鬼の間に割り込んだ。

肩に全身を駆け抜けるような激痛が走った。

「グレン!」

サラの呼ぶ声が遠のきそうな意識を繋ぎとめる。

「邪魔をするな」

グレンの体は弾き飛ばされ、再びサラの前に吸血鬼が迫ってきた。

サラは後退るが、すぐに壁に背中がついた。

「良い匂いだ」

吸血鬼は目を閉じ匂いを嗅ぐように鼻先をサラに近付けた。その鼻先に血のような赤い液体の注がれたグラスが差し出された。

「伯爵様、こちらのワインはいかがです?」

グラスを手にしているのはエレインだった。

吸血鬼はグラスに鼻を近付けスンと匂いを嗅ぐと、そのグラスを手に取り一気に飲み干した。

みるみる肌と髪の艶がよみがえり、顔色も良くなっていく。

「さぁ伯爵様、私に力を貸してくだされば、もっとこのワインを差し上げますわ」

エレインは歌うようにそう言って吸血鬼の腕に自分の腕を絡めた。

「領主様もいかがかしら」

エレインは反対の手を倒れたグレンの方へ差し出した。

その指先から赤い雫が滴り落ちてグレンの頬を濡らした。

グレンは顔をしかめ、乱雑に袖で顔を拭った。

「あら、私の血に反応しないなんて……。すっかり吸血鬼の血が薄れているのね」

そう言って首を傾げるエレインの顔はどれだけの血を流したのか、蒼白になっていた。

「舞台に撒かれていたのもお前の血か」

グレンは吐き捨てるように尋ねる。

「ええ、そうよ。魔女の血の匂いに吸血鬼が目覚めるかと思ったのに、ちっとも出てこないんですもの。素敵なショーが台無し」

エレインの手を吸血鬼がすくい上げるようにとると、真っ赤に濡れた手に舌を這わせ、ぱっくりと開いた傷口に吸い付いた。